2019.12/07 働き方改革(8)
電気粘性流体の開発では、その方法において科学を用いていない。例えば、電気粘性流体の耐久性問題を解決するのに、論理的ではない、たった一晩の実験で成果を出している。
ただし、高偏差値の大学の修士以上の学歴の複数の研究員が1年かかって、その方法ではできないと科学的に完璧な報告書を書いていた。すなわち当方が出した成果は「科学的にできない」と結論されたカテゴリーの技術成果だった。
科学的にできないとされた方法で実用化できた理由は、以前この欄で書いているので、ここでは簡単に説明する。
これは、哲学者イムレラカトシュが、その著書「方法の擁護」で述べている事例となる。
すなわち、科学で完璧な証明ができるのは、否定証明だけである。わかりやすく言えば、科学的にできる、あるいは問題解決可能な方法を科学的に導く方法は、いつでも「できる」という結論に至るとは限らない、ということだ。
これが科学の方法で業務を進めるときの非効率性につながる。また、スタップ細胞の騒動は、データを捏造してまでも科学に忠実であらんとした結果起きている。
科学の世界で捏造は悪いことだが、技術の世界では、繰り返し再現性があれば、捏造データはそれを再現できる限り必ずしも悪いことではない。この十年に起きた品質管理問題にこの誤解から生じた捏造の問題が多い。
捏造が人を欺くために行われたならば、それは悪いことである。しかし、自分一人で完結した実験を行う時に、捏造は新しいアイデアを生み出す場合があることを知っておくと便利である。
こんなデータが得られたら良いと考えて(第三者が見たら捏造だ)、実験シナリオを書いてみて実験を行うのである(これは科学の仮説設定とは異なる、誰でもできる易しいことだ)。
ここで科学の形式知を採用しようが経験知を採用しようが構わない。ヤマカンは外れる可能性が高いのでとにかく「知」を使うことは実験の成功確率を高めるために重要である。
半導体用高純度SiCを世界で初めて高分子前駆体から合成した実験では、原因不明の電気炉の暴走が起きたおかげで大成功している(運が良かったが、それ以外は知の集大成の実験だった)。
この時合成された高純度SiCを社長の前のプレゼンテーションで使用しているが、どのように合成されたのか説明していない(さすがに運よくできたとは言えなかった)。
モノができているので、嘘でも捏造でもないのだが、なぜか胸を張って説明できなかった。それが謙虚な社員と誤解されたのだから世の中何が幸いするかわからない。
たった1回の実験で、2億4千万円の先行投資を引き出せたのだから、極めて効率の高い仕事である。
いつでも運や偶然に頼って気楽に仕事ができたなら面白いに違いないが、研究開発において真面目に科学の世界だけで仕事を行うのは見直した方が良いのではないか。
技術を検証したり解析したりするときには科学的に行うべきであるが、技術を生み出す仕事を行う時に科学にとらわれる必要はない。
カテゴリー : 一般
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