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2020.03/01 研究開発管理(1)

研究開発の管理業務は、企業によりその中身はさまざまであるが、ステージゲート法は、多くの企業で採用されているようだ。

 

ステージゲート法を採用していない企業でも、研究開発テーマを節目に見直すことを行っているはずだ。今どき、研究開発テーマを何も管理をせずに進められるような体力のある企業は少ない。

 

ここで面白いのは研究開発管理を厳しくすればするほど、企画に対して研究開発の成功確率が悪くなるというパラドックスが存在する。このパラドックスゆえに研究開発管理は成功体験のある研究者に任せるとうまくゆくのではないか、と誤解している人もいる。

 

1970年代の研究所ブームでは、経済成長が著しい時だったので売り上げの2%程度はドブに捨てるつもりで研究所へ投資しているような企業も存在し、79年に入社した会社も結構気前の良い企業だった。

 

また、研究所長は成功体験のある研究者で研究管理部門も研究開発畑出身者だった。研究開発出身のU本部長が研究管理部長になられたときに研究管理部門のメンバーが見直され、経理出身者も補強され営業出身者も採用された。

 

1980年代にはU本部長が研究部門全体を見られたが、バランス感覚に優れた経営手腕を発揮された。高純度SiCの事業もU本部長時代に住友金属工業とのJVがスタートしている。

 

しかし、基礎研究を担当している管理職にはすこぶる評判が悪かった。理由は、「まずモノを持ってこい」というのが口癖だったからである。

 

当方は、6年間このU本部長の指導で研究開発の死の谷歩いていたが高純度SiCのテーマを無事事業化できその後30年事業が継続され、2018年セラミックスを専門としている企業に事業売却された。

 

6年間死の谷を歩きながら幾つか基礎研究テーマを提案し、研究開発を一定期間続けているが、結局高純度SiC半導体治工具事業だけしか成功させることができなかった。

 

「まずモノを持ってこい」と言われて、仮の「モノ」を作って企画を成立させて研究をスタートさせても、その次の関門を通過できず、研究段階で白旗を挙げざるを得なかった。

 

このようにU本部長指導の研究開発管理は基礎研究部門にとって厳しすぎる管理ではあったが、経営と基礎研究のバランス感覚は優れていたと記憶している。

 

幾つか企画した基礎研究テーマを中断しているが、つぶされた、という感覚ではなく経営について学ぶ機会を得たと感謝している。

 

当方は感謝しているが、基礎研究部門の管理職の中には、「まずモノを持ってこい」というのは研究を理解していないアホとまで言っている人がいた。

 

しかし、基礎研究部門の管理職に歓迎された本部長が優れていたわけではない。「加硫促進剤も老防も入っていないゴム」などという現実無視のゴム開発テーマを承認したり、「電気粘性流体の耐久性問題を界面活性剤で解決できない」と科学的に完璧な証明を行った報告書(注)を高く評価するようなミスをしている。

 

(注)企業の研究報告書における結論では、たとえ基礎研究であっても常に事業を前向きに進める内容が高く評価されるべきである。この報告書の出された直後、当方は界面活性剤を用いて一晩でこの報告書の結論をひっくり返す技術を開発し、界面活性剤の検討テーマを復活している。この技術は特許出願され、電気粘性流体開発のプロジェクトを事業化へ大きく進めることに貢献している。その結果、実用的な電気粘性流体用粉体を開発するように指示を受け、傾斜機能粉体や微粒子分散型粉体、コンデンサー分散型粉体などを電気粘性効果の機能を実現できる粉体を短期間に開発し、この中で傾斜機能粉体が実用化に使われた。FDを壊されて当方が転職後電気粘性流体の事業がしばらく続いたようだが、本来コストを無視していた企画ゆえに事業は長続きしなかった。電気粘性流体のメンバーの多くは高純度SiCの事業を当方の転職後しばらくしてから担当している。

ところで当方が粉体開発を急いだ背景には、コスト問題解決の狙いがあり、難燃性オイルの開発にも着手したがその道半ばで転職の決断を出している。その結果電気粘性流体におけるこれらの成果では特許出願を行っているが研究報告書を一切書かせてもらえなかった。粉体の開発テーマにしてもいい加減な指示からスタートしている。それは、耐久性問題を一晩で解決できたなら粉体も簡単に開発できるだろう、というやや当方を小ばかにしたような指示であり、当方はそのような指示でも誠実に応えて最初の傾斜機能粉体を3日で合成している。この粉体は分析グループにより解析され、見事な傾斜構造だったことが証明された。

調査研究に必要な十分な時間をもらえず、住友金属工業との高純度SiCの事業化テーマを一人で推進している多忙な状態ながらこれらの無理難題のテーマを当時こなしていたのである。

不十分な管理状態では担当者は疲弊する。そのうえ会議前にFDを壊されたのでは仕事の継続は難しい。事業に直接影響しない研究部門と考えていたとしても、管理職も含め研究管理は経営であり誠実真摯に行うべきである。当方は高純度SiC事業について誠実真摯に考えて転職を決意している。その結果転職後20年以上事業として続いた。

 

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