2020.11/10 技術者の解放(1)
科学技術という捉え方は、科学の時代において重要であるが、技術者はそれに縛られる必要はない。
かつて写真会社の役員が商品開発をしているとスタッフが職人になってしまう問題を嘆いていた。また、それゆえ実験を行う時には仮説を設定して行え、と声高に叫んでいた。
開発部門のスタッフが職人になってしまう問題は、企業の研究部門のスタッフが科学者になってしまう問題よりも弊害が少ない。
職人であれば職人として扱い、仕事をさせれば技術者のよい手足となるが、科学者を科学者として扱っていると無駄な人件費を支払うケースやジキルとハイドのような悪人を生み出す土壌になる。
電気粘性流体の開発では、優秀な科学者集団により6年間研究開発が続けられ、耐久性の問題でとんでもない科学的に正しい結論を否定証明により導き出している。
これは、当方が住友金属工業と高純度SiCの事業を立ち上げようと一人で踏ん張っている時だった。ちなみに研究所のテーマとして高純度SiCの事業化は電気粘性流体よりも1年遅れて正式テーマとなっている。
電気粘性流体も高純度SiCもゴム会社では、基盤技術が乏しいスタートではあったが、前者についてはレオロジーという基盤技術を生かすことができて適社度の高いテーマと位置付けられていた。
ゆえに耐久性問題が起きたときに、最も適社度の低いテーマを一人で担当していた当方に「添加剤が無添加のゴム」というクレージーなテーマ依頼が来たのだろう。
当方も管理職昇進を2年後に控えていた年齢なので、それを心配してくれた、と捉えることもできなくもない。
研究部門のトップが材料に詳しいリーダーから材料のことなど詳しくない音振動のスペシャリストに代わったので、楽観的な当方は少しそのような期待をして頑張って同時に頼まれなかった高性能電気粘性流体用粉末まで開発し提供している。
ただし高純度SiCの事業は、当方の開発した基盤技術がそのままで現在でも続いているが、電気粘性流体の事業は世の中にその痕跡も無くなっている。
カテゴリー : 一般
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