2020.12/14 アイデアの出し方(5)
あるテーマに関して研究開発を完了したならば、形式知を整理する習慣を身につけたい。これは、科学を道具として活用するために重要な習慣である。道具箱が整理されていない場合には、大切な現象を前にしても科学という切れ味の鋭い道具を使えず、見過ごしてしまう場合がある。
高純度SiCの合成実験に初めて成功した時に、頭の中には、フェノール樹脂に関する形式知が、整理されていた。
フェノール樹脂には、レゾール型の樹脂とノボラック型の樹脂があり、それぞれ合成ルートと用いる触媒が異なること、そしてそれにより合成されたフェノール樹脂の高次構造に違いが出る事などが整理されていた。
この形式知には公開されている形式知と、当方が実験して初めて見出した形式知も存在していた。後者はゴム会社のノウハウとなっている。
一方、フェノール樹脂を炭化させると難黒鉛化カーボンが製造されることは、古くから知られていた形式知である。また、フェノール樹脂を炭化させたときにその抵抗が変化する現象は、金原現象が知られたときの形式知である。
これらの形式知とフェノール樹脂とポリエチルシリケートとの反応に関する経験知から、電気粘性流体用の傾斜構造の粒子は合成された。当方にとってこのアイデアを導き出すことは朝飯前のことだった。
フェノール樹脂に関する形式知は、どのような現象を前にしてもいつも取り出せる状態にあった。また切れ味もその筋の専門家より良かった。
有機物の炭化に関わる形式知もフェノール樹脂天井材の開発を通じ、経験知と組み合わせられて整理され豊富だった。無機材質研究所へ留学するや否やそこの図書室にある豊富な文献から、形式知と経験知を分離し整理することができた。
科学という道具の切れ味を上げるためには、形式知と経験知の分離は不可欠である。なぜなら、経験知に基づく仮説による実験で真とならない場合に悩むことになるからである。ここで悩まない人はそれなりに問題があるが。
カテゴリー : 一般
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