2020.12/30 アイデアの出し方(14)
「pならばq」という仮説あるいは命題に対して、逆「qならばp」がいつも等価でない、あるいは成立しないのは、高校数学で学習するので誰でも知っている。
しかし、「qでないならばpでない」という対偶について忘れている方は多いと思う。これは、「pならばq」の逆の命題に対する「裏」に相当するが、対偶どおしは真である、すなわちある命題が成立すれば、対偶は必ず成立する、という論理学の重要な形式知である。
高校で習う論理学を侮ってはいけない。大学の教養部の哲学あるいはずばり論理学の試験について100点をとれるほどの内容を学んでいるのだ。
さて、この対偶は、アイデアを出すためにとどめておけばよいのだが、頭の良い科学者は、対偶から否定証明を行ってしまう。
例えば、「電気粘性流体の増粘を防ぐ添加物があるならば、その添加物は界面活性剤である」という命題について対偶を「界面活性剤ではない添加物ならば、電気粘性流体の増粘を防げない」と捉えれば、電気粘性流体の増粘防止に対して、界面活性剤でひたすら防ぐ方法を考える事になる。
ところが、「界面活性剤という添加物で防げないならば電気粘性流体の増粘を防ぐ添加物は無い」とやってしまう科学の研究者は多い。STAP細胞の騒動でもこのような意見が飛び出している。
(ちなみに、この対偶は「電気粘性流体の増粘を防ぐ添加物があるならば、界面活性剤という添加物で防げる」となる。微妙にもとの命題が異なることに注意してほしい。ドラッカーが正しい問題を解け、と言っているのはこのことも含む。頭の良い人は自分に都合の良い対偶を考案するから注意を要する。)
否定証明では、できないことを証明すればよいので簡単である。必死に開発なり探索作業を行っていてなかなか見つからない時に、これではできない、という証明について、できない状態の実験結果を示し、証明してしまう。
電気粘性流体では、構造が既知のあらゆるHLB値の界面活性剤について、検証するだけでなくゼータ電位の計測など当時の界面化学の形式知を総動員して否定証明を1年かけて完成させた。
ただ、これだけ素晴らしい否定証明でも、一つの真実により、否定されてしまうから大変だ。ある仮説なり命題の対偶はアイデアを出すために活用したい。
捻じ曲げた対偶で否定証明を行う愚だけは避けたい。30年以上前のトラウマは、否定証明の愚を忘れられないものにした。
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