2021.01/09 高純度SiCの開発(4)
ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせについて、科学的視点から発想するには難しいが、経験知があれば容易かもしれない。
当方は新入社員の時に、難燃性ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体の工場試作に成功している。半年間の研究で工場試作まで行ったのだから、本来は褒められてよいはずなのだが、始末書を書かされた。
当方は始末書を書くような野暮な仕事をしたつもりはなかったので、もめた末に始末書で、ホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体の企画提案を行っている。
これも半年後には工場試作を行っているが、とりあえず上市されたので始末書とはならなかった。しかし、この仕事の次に担当したフェノール樹脂発泡体天井材の開発では成果を出したが、300円同期より給与が下がった。
今でもこの時の給与明細書を保管しているが、サービス残業までして成果を出して、残業代が出ないだけでなく、給与査定も悪いという最悪の明細書である。
給与明細書は最悪だったが、この時の経験知はその後の当方の技術者人生に大変役立っている。また、上司が学会の世話人をやっていたので、当方の研究成果はすぐに学会発表させられた。
そのため、形式知としての整理がなされていたので、経験知も明確になった。形式知の整理の重要性はここにある、ということを学んだ。
ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体やホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体、シリカ変性フェノール樹脂天井材などから獲得し、整理された経験知があったので、科学的には否定されるフェノール樹脂とポリエチルシリケートの組み合わせでもチャレンジする強い動機になった、と思っている。
しかし一番大きいのは、成果を出しても評価されなかっただけでなく給与も増えなかった悔しさかもしれない。給与明細書を取り出して今眺めてみると、よくモラールを維持できたものだと感心している。
一方で、成果を出しても評価してくれなかっただけでなく、責任のない新入社員に始末書を書かせたダメな上司のおかげでホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体技術が生まれたので、ダメ上司ではなく感謝しなければいけないのか、と不思議な気持ちになる。
おそらく当時の上司は商品化部隊から、すぐに商品化できる新たな難燃化技術を求められていたのかもしれない。
だから、半年もかからずに工場試作が成功したホスファゼン技術を易しい技術と勘違いし、すぐに経営会議で発表したのかもしれない。毎晩徹夜し日夜奮闘努力していた新入社員のことを忘れていたのだろう。
なんやかやと悪い思い出も出てきてしまうが、企業で研究開発した成果をすぐに学会発表できたことは、数少ない幸運の一つだったのかもしれない。当方の発表の部屋は常に満員だったのは、時代のニーズに適合していた研究だったからだろう。
セラミックスフィーバーが起き始めていた時代であり、無機材料と有機材料の分子レベルのハイブリッドという先端技術を惜しげもなく学会発表させてくれた上司は、おそらく技術の価値など分かっていなかったのかもしれない。
当方は、高純度SiCの開発を一人で担当しなければいけなくなったときに、学会発表はすべてやめている。反応速度論解析がゴム会社最後の学会発表である。ここまでのネタで小出ししながらの学会活動に絞っている。
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