2021.05/06 高分子への気配り
「組織で働く」とは、いかに他のメンバーに対して気配りするのか、と同義だとサラリーマンを経験して学んだ。管理者が優秀であれば、メンバーはそのような気配り能力が無くても組織はうまく機能してゆく。
マネージメントとはそのために考え出された技術である。マネージメントを人間にあらかじめ備わっている能力だと誤解している人がいるが、これは学ばなければ身につかないし、組織で働く経験、すなわち実戦を経験しなければ理解できない部分もある。
高分子のコンパウンディングは、添加剤に対して気配りなどしない高分子を如何にマネージメントしたらよいのか、と考えるとうまくゆく場合が多い。必ずうまくゆくとまで言い切らないのは、当方の経験知だからである。
ところが混練の教科書にはこのようなことが書かれていない。物質を分散するためにどのようなスクリュー設計が、あるいは混練条件があるのか、などといった説明になっている。
だから、同じような混練条件で添加剤を分散していても、あるお客さんでは品質問題が起きているのに、他のお客さんでは起きていない、という一見不思議なことが市場で発生する。
あるいは、ある高分子では問題が起きていなかったが、他の高分子では問題が発生した、とか、従来のロットでは問題が無かったが、新しいロットで問題が発生した、といったことまで起きる。
これらは、高分子に気配りすれば、納得がゆく場合が多い。高分子にしてみれば、添加剤は異物である。できれば仲間と肌を合わせていたいのに、奇妙な物質を機械で押しつけられても排除したくなる。
添加剤の中には高分子とくっついていると気持ちの良いものもあるかもしれないが、大抵の高分子は仲間とくっついていたほうが気持ちが安定する。その結果、混練機から押し出された高分子は添加剤を排除したいと思いながら冷えてゆく。
冷えてゆくときにハイな気分の高分子から気力のない高分子まで様々な気分の集合体へとコンパウンドは変化してゆく。ガラス転移以下となっても体の一部が興奮してどうしようもない高分子がいるので部分自由体積なる空間ができる。
人間でさえどんなに寄り添おうとしても完全な理解はできないように、高分子についても完全にその気持ちを理解できるわけではない。しかし、「高分子を加工する」ではなく「加工される高分子」を見つめることでカオス混合装置を発明している。
科学的ではないが、それでも大手一流コンパウンドメーカーのコンパウンドよりも性能のとびぬけたコンパウンド開発に成功している。品質問題に悩まれている技術者は、もう少し謙虚になって高分子の気持ちを考えてみてはいかが。
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