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2021.05/13 高分子と環境問題

高分子と環境問題について正しい解をだすのは難しい。そもそも地球環境のあるべき姿と現実の人類の活動とがあまりにも乖離しているからだ。その昔、恐竜はその肉体の大きさゆえにほろんだとされている。人類は肉体の大きさではなくその知の使い道を誤って滅びるのか、と悲観的なことを考えてしまう。

悲観的なことを考えていても仕方がないので、その時代の技術で実現可能な、少しでもよくなる方向を考えてゆこうとするのが健全な知の働かせ方である。そもそも人口爆発の問題さえも解決できていない。焼け石に水かもしれないが、最善と思われるできるところから対策をせざるを得ない、というのが地球規模で起きている問題である。

20年ほど前に高分子精密制御プロジェクトという国研が東工大中浜先生をリーダーとして推進されたが、産業界からは酷評された。少なくとも当方の評価よりも低い評価が当時の説明会でなされていたが、例えば分子一本の粘弾性データというようなその価値がわからない人には遊びにしか見えない渋い成果を出されていた。

バブルがはじけ国研の評価が厳しくなってきた時代なのでこのような渋い成果は酷評される。しかし、企業ではできないような実験では、それが実施されるだけでも新しい現象がそこで観察されるといった価値がある、と見るべきである。そこには新たな機能が隠れているかもしれないからだ。

1円でも儲かるような拾い物ができれば、それを膨らませて1億円以上とするのは技術者の仕事である。科学者と技術者の違いはこんなところにもあるが、とにかく鵜の目鷹の目で研究者と一緒に実験結果を好意的に眺めれば、面白いネタ程度のものを必ず拾える。

例えばとんでもないL/Dの二軸混練機を使用した研究やらウトラッキーのEFMやら実用性の無いと思われた設備の実験結果は、当方にとってカオス混合の発明や再生PET樹脂の開発に大変参考になった。

また、当時のアカデミアからの提案に強相関ソフトマテリアルの動的制御という概念があり、この説明に高分子材料の環境問題解決のための壮大な概念図が示されていた。

およそ今眺めてみても荒唐無稽と言っても良いような図なので産業界から顰蹙を買っても仕方がないのだが、そこに描かれているアイデアには、注目すべき点がある。

金属やセラミックス材料では加熱相分離により、それぞれの要素となる金属を結晶として取り出すことが可能であるが、高分子ではそのような手法をそのまま使えない。そのため特殊な相分離によりできる高次構造制御により機能を設計するというアイデアが提示されていた。

この考え方を近い形で中間転写ベルトの設計に活用させていただいた。そして無事量産に成功し、今でも生産されている。そしてその材料は、期待されたようにリサイクルすればするほどロバストが向上する。

残念なのは、20年前のアイデアでは、活用後にマクロ相分離を生じさせて各エレメントに分解し再び原料とするプロセスが提案されているが、この実用性についてリサイクル実験をしたところマクロ相分離させても回収は困難だった。

高分子は機能を上げるためにどうしても複合化が必要になる。ゆえに20年前のアイデアのように無理に各エレメントに分別することを考えず、それを機能要素としてさらにブレンドして活用するアイデアの方がリサイクルしやすいのではないか、と考えた。

それを念頭に置き、再生PET樹脂の作戦1では、5種以上のポリマーを用いた多成分ポリマーアロイで材料を設計している。作戦2は月並みのPC/PETであり、これがリサイクルされて他のPC系のポリマーアロイとブレンドされても、作戦1を使えば、樹脂の性能を落とすことなくリサイクルできる。

すなわち、この時思い描いていたのは、高分子精密制御プロジェクトで提案されていたマクロ相分離による各ユニット分離手法ではなく、ブレンドしても機能が生きるリサイクル技術であり、PC/PETをPETやその他のリサイクル材とブレンドしても機能が保存される技術である。

当時時間が無かったので十分な研究を行わず、まずモノを作ることに専念したので、退職した翌年に社長賞を受賞したと連絡が入った。10年間その後の報告を待ったが、音沙汰なしなので環境問題に貢献できるよう公開させていただいた。

カテゴリー : 一般 高分子

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