2021.06/17 高分子の劣化と環境問題
2015年にストローが鼻に刺さった亀の紹介があり、脱プラスチックが騒がれるようになった。また、プラスチックが完全に分解されず、マイクロプラスチックとなり、人間の体内から見つかるとますますプラスチックごみの問題に対して厳しい意見が出てくる。
20年ほど前に環境関連の法律が多数施行された。当時環境問題の対策として生分解ポリマーがもてはやされた。しかし、マイクロプラスチックスで進行する海洋汚染が報告されて、この生分解ポリマーに対して環境問題の解決策となるのか疑問符がつくようになった。
また、エジプトのミイラにまかれたセルロースがその原形をとどめているのを目にすると、現実の高分子の劣化速度が実験室のそれよりも長いことが想像される。
かつて、高分子の劣化が学会で議論されていたが、その一つに紫外線照射で高分子が分解し劣化する問題があった。この時は高分子材料を利用する視点で研究されていたので耐久性を向上させる各種添加剤が検討されている。
この添加剤の中には有害なものも存在するということで、今その見直しが行われており、添加剤メーカーにとってプラゴミ問題はビジネスチャンスとなっている。ところがこの問題について海洋汚染の研究が進むにつれ他の現象が見つかって、その解決は一筋縄でいかないことが見えてきた。
脱プラスチックが叫ばれるようになったのは、海洋汚染の実態がひき金だが、このやや過激なフレーズは科学の現状を考えると一つの正解を示している、と言わざるを得ない。
科学の視点では、すなわちプラごみ問題を科学的に解析してゆくと、脱プラスチックが正解となるのだろうけれど、我々の身の周りを見ると今更脱プラスチックなど不可能である。
しかし、ここで絶望的になる必要は無い。本欄で書き続けてきているように、科学は一つの現象の見方であり、科学の視点で難しくても、他の視点でみれば解決策があるかもしれないのだ。
それはこれまで技術開発されてきた製品について科学で100%リベールされていないことからもご理解いただけると思う。すなわち技術開発では、科学で解決策が無くても何とかしてきた歴史がある。
高分子の劣化について、これまで科学的に解析され、その対策のために添加剤が開発されてきたことを先に述べたが、その添加剤が用いられていても海洋ゴミでは高分子が太陽光で分解され、二酸化炭素を発生し、マイクロプラスチックスになって漂っている。
この現象について詳細を省略するが、これまでの高分子の劣化と崩壊に関する科学の研究について見直しをしなければいけないのではないかと考えている。海洋汚染の問題を考えていると、これまでの高分子劣化研究がタコつぼの奥にこびりついた水垢を調べていたような印象を受ける。
ちなみに学生時代から当方は学会活動をしていたが、就職して初めての学会活動は、始末書を書く、書かないでもめていた時に、その上司から頼まれて発表した「高分子の崩壊と安定化研究会」である。
ポリウレタンの熱分解について当方の研究成果を発表したのだが、新入社員の始末書問題では、このことも考え合わせるとなぜ成果を出した当方が書かなければいけなかったのか理解不能(注)。ちなみにポリウレタンの熱分解研究は上司に指示されたテーマではなく、難燃化技術を開発していた過程で疑問が出てきてその解決のためにサービス残業して行っている。
入社し2年経っていないという理由で残業代をつけることができなかった。それゆえ、サービス残業ではない、という説明を上司から受けたり、「趣味で仕事をするな」と言われながら研究を進めた思い出がある。
環境問題は暗いテーマであるにもかかわらず、地球規模の問題でスケールが大きすぎて考えていても落ち込まない。一方、FD問題やこの始末書問題は、それに比較すると小さい問題であるにもかかわらず、トラウマとなっているので暗くなる。部下を指導される立場の方は、その部下の老後も考えてやってほしい。
(注)「世界初の新技術を開発してほしい」という希望も製造部門から出されていた、と伺っている。そこで張り切って、当時の新素材ホスファゼンのプレポリマーを新規開発し、工場試作の成功を実現している。この試作の交渉を新入社員ができるわけではなく、また試作は製造部門も参加していたので両部門合意が取れていたはずである。そもそも失敗したわけではないのに、市販されていない素材を使ってすぐに事業展開ができないという理由で、新入社員に始末書を書け、と言う命令は、未だに理解できない。今でいうところのパワハラに負けて始末書を書いているが、始末書に燃焼時の熱でガラスを生成しポリマーを難燃化する企画を添付できて、それを実用化できた一連の出来事を同期に話しても笑い話になってしまうのがつらい。実話である。今以上に当時はパワハラが横行していたが、日本中の新入社員もパワーにあふれていた時代である。
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