2021.06/30 材料の強度(3)
金属材料からセラミックス、ゴム、樹脂などすべての材料を扱った経験から、もし材料を高分子からダイヤモンドまで一つの平面で並べるとしたならばどのような象限で材料をまとめればよいのか、という問いに対して、硬さあるいは弾性率を縦軸にして、横軸に靭性値としたグラフを書けばよいと思っている。
この点が既に怪しいのだ。縦軸に弾性率をとってみても、横軸は形式知ではない靭性値を当てはめようとしている。アカデミアの先生は絶対にこのような見方をしないが、実務家はこのような材料の見方をしている。
モノリシックな材料は、この象限では反比例のグラフのように並ぶ。すなわち、単結晶では弾性率が決まると靭性値が固有の値となる、という怪しいことを述べている。感覚的にはご理解いただけるかもしれない。
すなわち材料物性を改良しようとしたときに、例えば硬くてあるいは弾性率が高くても割れない材料を創りたかったら、複合材料しかないのである。
昔、芯が炭素で表面に近くなるとSiCになっている、傾斜組成の複合炭素繊維を開発している。これは傾斜材料であるが、この長所は炭素と反応しやすい金属の繊維補強材料として使える点である。例えばアルミニウムを炭素繊維で補強し複合材料を製造しても、界面にアルミと炭素の脆い化合物ができて十分な補強効果が得られない。
しかし、この繊維を用いると界面は、アルミと炭化ケイ素との複合材料となり、界面の靭性が上がり補強効果が出る。実際に炭素繊維補強アルミとの比較を行ってみると、引張強度に差が出る。C-SiC繊維で補強したアルミニウムは弾性率が高くなっても割れにくいので、とんでもない引張強度を示すようになる。
この結果は当時東京工業試験所の先生とデータを採取したが、学会発表はしていない。コスト計算をしたときに現実味がないのでボツとなったテーマ企画である。とにかくモノ持ってこい、と指導されていたので、とにかく傾斜組成のC-SiC繊維を瞬間芸で開発し、東京工業試験所でアルミニウムとの複合化を行い、物性試験を行っている。
ゴム会社のU本部長は今でいうところのアジャイル開発を指向していた。分厚い企画書などいらない、まず開発したいモノを持ってこい、というのである。
これは研究所ですこぶる評判が悪かったが、このような開発習慣で身についたスピード感は、写真会社へ転職しても役立った。例えば、中間転写ベルトの開発では中古機を集めて3か月でカオス混合プラントを建設している。
カオス混合については、高分子学会技術賞や日本化学会技術賞に推薦されたがボツになっている。そこで退職してから研究を進め、ゴムタイムズ社から混練書籍として上梓している。
日本化学会技術賞その他を受賞している高純度SiCの合成法と並ぶくらいの革新的技術であることが退職後のデータで示された。材料物性も含め評価能力が無ければ良い材料や技術を見落とすことになる。
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