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2021.07/04 大学と社会の齟齬を考える

日本化学会会報「科学と工業」7月号に表題の記事があった。まず結論から書くが、記事に書かれたいくつかの齟齬との指摘について、それらは齟齬ではない。科学と技術の本質から由来するものなので、その宿命をアカデミアの方たちは悟るべきである。

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当方はゴム会社の新入社員時代にアカデミアよりもアカデミックな研究所に配属されて、科学の研究と技術開発の両方(注)を一人努力し成果を出すことを求められた。挙句の果ては同僚から会議の前日にFDを壊されるようないじめをされた。そして組織がそれを隠蔽化したので、大変悩んだ。

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悩んだあげく、死を選択するのではなく、高純度SiC半導体治工具事業を住友金属工業とのJVとして立ち上げたにもかかわらず転職している。ここに至った原因は組織との齟齬などという範疇ではなく、犯人の言葉から伺われたのだが、技術に対する嫉妬の類と理解している。

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それをその組織は認めたのである(研究が趣味のI本部長へ交代してからFD事件は起きている)。ゆえに組織の嫉妬として小生は捉えた。ただし、「ファインセラミックス、メカトロニクス、電池を3本の柱とする」という社長方針が出ており、この方針に基づき、当方は業務を実行していただけである。

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ちなみにその会社には社内に2つの風土が存在した。研究所はアカデミックな風土であり、研究所以外では、他の企業で職人と呼ばれかねない技術者が活き活きと仕事をしているような風土である。

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当方は研究所に配属されたので、例えば新入社員時代からホスファゼン変性ポリウレタン発泡体について英語の論文を書かされたり、高分子学会「崩壊と安定化研究会」で発表させられたり、高純度SiCの業務では、日本化学会の年会発表をせかされたり、と科学の研究者として育成していただいた。

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他方で企業内の研究所として当然な技術のアウトプットが求められた。ゆえに技術開発と科学の研究の両者をおこなわなければいけない過重労働で業務をこなしていた。そして住友金属工業との半導体治工具事業のJVを立ち上げたその時、技術開発が行われていなかった電気粘性流体のお手伝いを言われ引き受けて推進していた最中に起きた業務妨害である。

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過去にアカデミアと呼べる組織で起きたSTAP細胞騒動では著名な研究者が自死を選んでいる。この業務妨害された体験から、当方は少なからず彼の気持ちを理解できる。科学者と技術者の違いはあれど、組織の中で一人針のむしろに座らされて卵をぶつけられたなら、さらに人間の尊厳まで否定された時、どのような気持ちになるのか、彼の一部公開された遺書から想像していただきたい。

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STAP細胞の騒動は自死した研究者一人だけの責任ではない。それに関わった組織の責任であって、一人の研究者が自死でそれを償うように追い込むのは間違った考え方である。彼はSTAP現象の存在を世界に発信した立役者であり、それを組織は認めている。組織が認めた仕事は、組織で責任を負うのが原則であり、それを特定個人に異常な負荷をかけ追い込むのは間違ったマネジメントである。

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一つは技術の世界の事件であり、片や科学の世界の事件である。共通しているのは組織目標を取り違えている点である。企業では、技術成果を出すことが目標であり、アカデミアでは一朝一夕に見いだせない真理を見出すのが目標である。企業の研究所でJVを立ち上げても、一晩で電気粘性流体を実用化できる技術を創り出してもおかしくないのだ。アカデミアで、せっかちな目標追求は適さない。

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まず、研究開発を社会の中で担う組織では正しく活動しているかどうかを反省する必要がある。当方のFDを壊した犯人も含め「研究者」と呼ばれる人には、組織活動を正しく理解せず活動しているケースがある、という内側の問題が解決されなくてはならない。社会との齟齬を言う前に、正しい目標を理解し実行しているかどうか自問自答したい。

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当たり前のことを書くが、科学とは真理を追究する哲学であって、知の砦であるある大学は、まずこれを真摯に追及する活動をするのが基本である。一方で技術とは、日々の営みの中で人間の生活をより豊かにするために生み出されるべきオブジェクトである。特殊な企業を除き、技術を目標に企業では研究を進めなければいけない。

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換言すれば科学者とは真理の追究者であって、技術者とはそのオブジェクトの具現化に努力する人である。技術者は科学の成果を鎧として身に着けることにより、あるいは武器としてそれを活用することにより、成果を出すスピードを加速度的に上げることができる。

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科学の誕生により産業革命が起きて、今日までその技術革新が驚異的なスピードで進んだのは、科学の成果が技術者にうまく活用されたからだ。この時、技術者の中には科学者を兼務できる人間が現れて、科学者になった人もいたが、仮に科学者を兼務できても技術者として活動している人がいた。

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後者は現代の技術者であり、現代は科学者を兼務できないならば、科学誕生以前の技術者と同じ力量を持って活動していても企業の中で職人として扱われる時代である。昔ながらの優秀な技術者であっても科学者を兼務できないとみなされたならば、企業内で科学も技術も理解できていない人間に職人として乱暴に利用される社会である。

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ゆえに企業では、科学を身に着けている証として技術者といえども学会活動が求められ、学位を取得することが望ましいとされる。それをしていなければ職人として扱われるからである。企業から学会参加者が減り続けている状況は、企業内の職人が増えていることを表している。企業では、技術者が減少しても職人がいればモノができるので困らないのだ。いざとなればアカデミアに頼ればよいと安直に考えている。

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企業における技術者の処遇はこのようであるが、アカデミアの科学者の中に技術者を兼務しようと努力をされている方はどれだけいるだろうか。無知な企業の中には、技術アイデアを知の代わりとしてもとめてアカデミアの門を叩く場合がある。追及された真理をそこに提示しても、アカデミアの門を叩く企業の職人には意味不明のこととなる。これは齟齬ではなく、科学と技術に対する相互理解の無さゆえである。

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当方は、旧7帝大の某先生に学位を授与するから、と言われて、高純度SiC開発の傍ら超高温熱天秤を自作しそれを研究に用いてまとめた反応速度論データをお渡ししたところ勝手にそれを論文として出されてしまった(真理を吸い上げることをアカデミアは得意とする事例である。)。それだけではない。奨学金を支払えという。すでにゴム会社から当方のために奨学金が支払われていても、である。ゆえにその大学の学位審査を辞退している。

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この一部の事実は、他大学で取得した当方の学位論文を見ていただければご理解いただける。ただしこの事例をもって、アカデミアはだめだ、と言っているのではない。このようなことを平気で行う姿勢をアカデミアとしてどのように考えておられるのか、当方はまだこの答えを勝手に論文を書いた先生からさえも聞いたことが無い。その後、その先生と学会でお会いした時の態度から想像すると、おそらくそれらの行為を当然のことと思っているように受け取れた。

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他の奇妙な事例として、STAP細胞の騒動があり、その時一度学位を授与された博士が事件後学位を剥奪されている。社会に明らかになったこの経緯は極めて奇妙であり、その大学は未だに両者が納得する見解を公表していない。

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少なくとも大学は真理を追究することが使命としてあり、社会は今でもそのような組織体として大学を見ている。ただし、その真理がどのような形で技術になるのかを社会に示す責任が現代のすべての研究者には求められている。一方で企業の技術者は、大学で見出された真理を活用して現象から新しい機能を取り出し、オブジェクトとして完成させる責任がある。

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もし、大学の研究者がこのそれぞれの使命に気づかず、職人に話をしたり、科学も技術も理解していないような実務家に話をしていても通じないが、これは齟齬ではない。

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学会誌に書かれていたような事例は、科学と技術の無理解による当然の結果と当方は思っている。これを是正するためには、科学者と技術者とがうまく連携するのか、あるいは科学者が自ら技術者となるのか、それぞれがさらなる努力をしなければいけない。技術者教育が必要であれば弊社にご相談ください。

 

(注)12年間のゴム会社研究所における技術成果として、1.樹脂補強ゴム(エンジンマウント用防振ゴムに採用された)、2.ホスファゼン変性ポリウレタンフォーム研究(J.Mater.Sci.,24,2761(1969),特開昭57-133111)、3.燃焼時にガラスを生成し高分子を難燃化する技術(電気製品用難燃性ポリウレタンフォーム、特開昭58-136615)、4.M社向けフェノール樹脂発泡体天井材パネル、5.高純度SiC合成技術(無機材史研究所で出願した基本特許はじめ多数)、6.高純度SiCを用いた半導体治工具(住友金属工業との共同出願特許多数)、7.電気粘性流体技術(耐久性向上技術や傾斜機能粉体合成技術、微粒子分散型微粒子、コンデンサー分散型微粒子等に関する多数の特許出願)、8.電子機器に用いるホスファゼン難燃剤技術(ホスファゼン難燃製油として複数出願)、その他、C-SiC無機繊維の開発、繊維補強アルミニウム、高靭性SiCチップ(切削工具)など。高純度SiC合成技術は、住友金属工業とJV(途中でゴム会社へ移管)として立ち上げた半導体治工具事業としてスタートしてから30年近くゴム会社で事業が行われ、その後当方の故郷にあるセラミックス会社へ移管された、思い出深い仕事である。科学の成果としては、前駆体法による高純度SiC合成法の反応速度論的解析を中心にした学位論文で工学博士の学位を取得している。

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