2021.07/27 環境問題と脱プラスチック(4)
家電量販店に行くと入り口にインクジェットの容器回収ボックスがある。正規品ではない詰め替えインクを販売しているメーカーが設置している。面白い事業である。なぜ大手のインクジェットメーカーが行わないのか自明である。
インクジェットプリンターに限らず事務用複写機もビジネスモデルが消耗品で儲ける仕組みになっているからだ。同様の論理でニコンがカメラ市場でシェアーを落としている理由も明快である。サードパーティーの交換レンズの存在を認めていないのだ。
カメラ本体の価格を下げて販売すれば一気にシェアが伸びるはずだ。ただ、レンズは消耗品ではないのでこのような戦略が難しい。すなわち、プリンターや事務用複写機では、利益はともかくハードウェアー本体を安売りしてシェアーをたくさんとれば消耗品の売り上げが増えるのでそこで利益を回収するシステムができる。
その結果、純正品の消耗品では本体の利益もそこに入れる必要があり、どうしても消耗品が高くなる。すなわち、現在のビジネスモデルを成立させるためには、消耗品を高くする必要があるのだ。そこにサードパーティーの参入する機会を作ってしまった。
サードパーティーはインク容器を製造する必要もないので価格をさらに抑えることができる。サードパーティーのインク技術も高度になってきたのでアマゾンには純正品の半額で高品質のインクが売られている。
昔トナーも詰め替え用が売られていたが、静電気の制御で情報を紙に転写する技術は神業に近く、トナーの静電気特性も本体に合わせる必要があり、カラー複写機が普及すると消滅した。
カラー複写機では、トナーの設計がインクジェットのインクよりも難しい。インクジェットのインクでは、本体の目詰まりを起こすようなインクでもとりあえずカラー出力ができるが、カラー複写機では画像品質が著しく落ちる。
年賀状しか印刷しないユーザーはこれに気がつかないから、本体の壊れた原因がインクではなく経年寿命と勘違いする。写真画質インクジェットプリンターも出始めは高価だった。
これを純正インクで10年使用できたが、10年目に買い替えたときに安くなっていた。さらにサードパーティーのインクも販売されていたので買い替えたが、2年で目詰まりによりダメになった。
プリンター開発も経験していたので今では純正インク以外使わないが、プリンターの仕組みを知らなければプリンターメーカーの責任を疑うのかもしれない。しかし、これはサードパーティーのインクを使用したユーザーの責任である。
純正インクを使用し、本体を長持ちするように使うのも環境問題解決に貢献する。プリンターの環境問題の一部はサードパーティーのインクを使う消費者にあることに意外と気がついていない。自由競争経済の仕組みにも手を入れなければいけない問題かもしれない。
今の会社を始めたときに中国企業から詰め替え用のトナー製造のビジネスについて相談されたが、インクジェットのインク詰め替え事業の方が無難だ、と指導している。20年世話になった会社に気を遣ったわけではないが、事業の容易さからである。
この時、インクジェットメーカーには申し訳ないと感じた。しかし、今なら環境問題に対する考え方が当方も少し変化し、そのような事業はSDGsの観点から先行きが危ないからやめとけ、と指導するだろう。
この発想は環境問題とプラスチックを考えるときに重要である。今日本の産業は、素材産業から組み立て産業まで分業体制となっている。家電リサイクル法の成功により同様の法律が将来拡大して立法化される可能性がある。
その時、製品回収を事業としてどのように取り組むのか。回収された製品を資源と捉えるのか、ごみと捉えるのかにより、従来の分業体制に少なからず影響を与える。すなわち、組み立てメーカーが素材産業に進出する機会がこの時生まれるからだ。さて素材産業はどうするのか。
これから仁義なき戦いが環境問題解決のために勃発する。業界を越えた戦いが活発化すればするほど環境問題は解決する方向に向かうのではないか。環境問題の脱プラスチックというシナリオは、ダスティンホフマン主演ではなく菅原文太主演に書き換える必要がある。
カテゴリー : 一般
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