2021.11/10 高分子材料の破壊
金属やセラミックス、高分子材料のすべてを扱った経験(注)から、高分子材料の破壊を理解するためには高分子に関する先端の知識が無いと難しいと思っている。その原因は、金属やセラミックスに関してその材料として使用されるときの構造がほぼ明らかとなっており、また形式知について20世紀末にほぼ固まったからである。
しかし、高分子材料について材料として使われている時の構造は、今まだ研究が行われている段階で、先端知識を有する企業では、高分子材料を階層的に捉える考え方で材料設計が行われている。
昔は材料力学と言う学問の中で高分子材料も一緒に扱われていたが、金属やセラミックスと高分子材料が大きく異なるので、という段階でその進歩は止まっている。
以前アカデミアの先生がマテリアルインフォマティクスのセミナーで40年以上前の線形破壊力学の話をしていたのでびっくりした。ご専門は数学だったのでツッコミを入れることをやめたが、アカデミアでもその程度と理解しておくことは大切である。
ちなみにどのようなツッコミを言いたかったのかのべると、その程度の結果は40年前に結論が出ている、というコメントである。この先生が40年前の話をしても皆知らないと思って話をしたのか、先生自身が40年前の研究についてご存じなかったのか知らないが、いずれにしても研究者として失格である。
材料力学で高分子材料も金属やセラミックスと同様に扱われていた時に、レオロジーという学問ではダッシュポットとバネのモデルで高分子の物性は議論されていた。しかし、この考え方ではクリープを説明できないということで20世紀末に新たな形式知の体系づくりが始まっている。
レオロジーでは土井先生はじめ高分子物理の造詣が深い先生方が育っておられたので学問のイノベーションが進んだが、材料の破壊は科学で扱いにくかったという事情もあり、アカデミアの研究者が少なかった問題がある。
ところで、高分子材料の破壊する直前までの過程はレオロジーの形式知が重要となってくるが、その形式知がまだ研究途上である。次に金属やセラミックスの破壊過程において、線形破壊力学という学問の形式知は重要であるが、この形式知の体系で高分子材料の破壊をすべて説明できないのだ。
これは脆性破壊と延性破壊が組み合わさっている、とその理由が説明されているが、それほど単純な問題ではない。例えば破壊過程で結晶化が進む場合だってあるのだ。
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高分子材料の破壊について完璧な形式知が存在しなくても実務では材料設計をしなければいけない。しかし、技術を理解しておれば科学で不明な領域があっても「技術で」対応可能である。18日のセミナーでは技術の講演を行う。
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(注)学位はセラミックスから高分子まで扱った内容で、これは、国立T大で学位をくださると言われたが当時無機高分子で実績を出していた中部大学に変更したおかげで完成できた論文である。T大で学位取得を辞退した理由は以前説明している。
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