2021.11/23 高分子材料のツボ(8)
結晶性樹脂では、結晶相と非晶質相(ガラス相)ができる。そしてガラス相は高分子の運動が凍結されたガラス相と周囲の温度に相当するエネルギーで分子運動可能な自由体積部分の2種類の構造ができている。すなわち3種類の構造が高次構造としてできている。
昔、ゴム分子はらせん構造の分子と考えられていたが、最近のゴムと呼ばれる材料の分子について必ずしもらせん構造とは限らなくなった。しかし、ゴムと言う材料は、分子の架橋構造を共通した特徴として持っている。その結果、簡単にラメラを形成することができない。
この架橋構造が化学的な結合でできている場合と、ポリウレタンゴムのようにウレアと呼ばれる化学結合の凝集体でできている場合があるが、とにかくゴムと呼ばれる物質には、分子の一次構造に架橋構造があるために、それが結晶性高分子であっても結晶ができにくい。
しかし、引っ張ると規則正しい部分は並ぶことにより結晶化する。この時、エントロピーと呼ばれる熱力学的パラメーターが減少するので、全体のゴムのエネルギーが減少し温度が下がる。これは幅広のゴムを急激に引っ張ってそれをすぐに唇に当てると冷たくなっていることにより確認することができる。
ゴムがよくエントロピー弾性を示す、と言われたりする所以である。むりやり規則正しくしたものは、元のランダムな形態に戻ろうとする。人間も分子も同じである。無理やり規則を押し付ければ元の自由な状態に戻ろうとする。
ゴムは粘弾性体と呼ばれたり、エラストマーと呼ばれたりするが、ガラス転移点が室温以下でなければ、自由に変形できないので大抵のエラストマーのTgは室温以下に観察される。
樹脂ではTgが室温以上で観察されるので、樹脂とエラストマ-は、高分子材料の分類を示す言葉のように思える。しかし、未だに高分子材料を分類する形式知は存在せず、これがまた高分子材料を難しく感じさせる一因になっている。
セラミックスならば結晶構造で分類した体系が存在し、自分の知りたいところだけ形式知を得て、仕事ができるが、高分子材料では、まず全体をよく知らなければよい仕事ができない。
ゴム会社に入社し、樹脂補強ゴムの開発が新入社員テーマとなった時に慌てた原因でもある。指導社員はセラミックスの講座を卒業してきた当方に、優しく毎朝3時間半の高分子に関する座学をひらいてくれたが、マンツーマンできつい日々だった。
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