2021.11/25 高分子材料のツボ(10)
ブリードアウトについて科学的に研究すると、金属やセラミックス同様にフィックの拡散法則に従った結果となる。仮に拡散法則から多少ずれたとしても、そこを仮のパラメータを置き考察したりすることが研究として行われる。
科学の研究としてわかりやすい研究である。そしてこのような研究方法で球晶の中を低分子が拡散する現象を発見したという論文も存在する。球晶はラメラの凝集体なのでラメラ間にガラス相が存在することを考慮するともっともらしい結論に見える。
しかし、未だ誰も球晶の中を低分子が拡散しているところを直接観察した人はいないことを知っておくべきである。科学の研究で困るのは、シミュレーションにより考察された結果である。
当方もシミュレーションを時々行うが、あくまでも現場で起きている現象を理解するためであって、科学の研究のためではない。問題は研究のためのシミュレーションである。
仮説の中に全ての因子が盛り込まれていないシミュレーション結果を信じない方が良い。大抵は平衡状態のシミュレーションであることも知っておくべきである。非平衡状態ではシミュレーション結果より大きくずれる場合もあることを覚悟して結果を見る賢明さが欲しい。
ブリードアウトの実験は多くの場合に管理された条件で行われる。実験のやりやすさから、静的な実験条件となる。例えば昇温速度を変えたりしてブリードアウト現象を観察したりするような実験はあまり行わないだろう。
しかし、日常の使用状態あるいは保管状態は30℃以上の偏差があることに気がつくべきである。一度昇温と降温を繰り返しブリードアウト現象を観察したことがあるが、一定温度の実験よりも加速されることを経験している。ブリードアウトの品質故障では現場重視で取り組まないと原因不明となる場合もある。
現場における高分子材料の品質故障を簡単な実験で再現できる場合が多いが、樹脂の高次構造が少なくとも3種類できており、全く制御できない自由体積の存在を知ると、実験結果やその方法の見方が変わるはずだ。
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