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2021.12/12 玉か紐か

ラテックスを塗布し形成された薄膜を観察すると、セラミックスのような粒界が観察されるときがある。そしてその構造のサイズは、ほぼラテックス粒子の大きさと同じである。


このような電子顕微鏡写真を得るためには観察用の良好な剥片が必要だ。さらに四酸化オスミウムなどの染色をしなければいけない。


ラテックスから形成される薄膜は、おそらく皆このような高次構造の薄膜になっているのだろう。面白いのはこの薄膜をさらに熱処理をしてやると粒界が無くなる場合と高次構造が変化しない場合とがある。


ところが薄膜物性を評価してやるとどちらも似ており、玉の性質は消えて紐で現象をとらえた方が説明しやすい場合がほとんどだ。


ならば、樹脂のラテックスとゴムのラテックスを混ぜたらどうなるか(樹脂成分は30wt%未満の配合である)実験してみた。アクリル系ラテックスであれば、このような実験が容易となる。


pHを揃えて合成できる樹脂とゴムのラテックスを別々に合成後、混ぜて塗布液を調整する。この塗布液で薄膜を形成すると、樹脂球がゴム球の中に分散している構造の薄膜となる。これを加熱処理しても観察される構造は変わらない。


おもしろいのはこのように製造された薄膜でも弾性率が上がる。ゴム会社の新入社員テーマで樹脂補強ゴムを製造した時のことを思い出した(この時は樹脂成分は20wt%未満の範囲で実験している)。


この時、目標としたゴールは樹脂の海にゴムの島ができている高次構造だったが、ゴムと樹脂の組み合わせが悪い場合には、ゴムの海の中に樹脂の島が分散している高次構造となった。面白いのはこの高次構造の差は弾性率で比較しても観察されなかったことだ。


弾性率に差は出なかったが、樹脂が島の場合には引張強度に大きな差が現れた。樹脂が海の高次構造の樹脂補強ゴムの方が引張強度はじめ多くの点で優れた物性を示した。


ところが、PETフィルムに樹脂ラテックスとゴムラテックスの混合物を塗布して薄膜を形成すると、樹脂が島構造となっていても、薄膜物性は良好だった。おそらく、樹脂補強ゴムにおける樹脂の島相のサイズが大きく機能していた可能性が高い。


このような現象を考えるときに、紐か玉かどちらが良いのか悩む。およそ妄想の世界でアイデアを練る限界かもしれないが、高分子材料の設計をする場合に科学的に考えているよりも、このようなモデルでイラストを頭に描いて考えた方がアイデアが豊富に出てくる。


こうしたアイデアの大半は科学的ではないが、実現できる場合がある。半導体無端ベルトの押出成形技術を完成させたときのアイデアはこうして生まれている。そしてカオス混合技術を開発することができた。


技術とは必ずしも科学的である必要は無い。それを伝承するためには科学的である方が容易ではあるが、機能を実現するためには非科学的技術であってもロバストさえあればよいのである。科学で固まった頭を少し柔らかくしていただきたい。

カテゴリー : 一般 高分子

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