2021.12/25 ジャズ演奏
昨日音楽の形式知を学んだ体験の話を書いたが、実際のジャズ演奏と知の関係について少し独断と偏見でJoe Passの「枯葉」の演奏事例を基に解説してみる。
「枯葉」はジャズのスタンダード曲なのでご存知の方も多いと思う。このギターソロ、Joe Passによる演奏が感動的である。どのジャズ奏者による「枯葉」よりも派手に枯葉が舞い散るので当方は好きだ。
この曲を多くの演奏者はB♭maj.で演奏しているが、彼はGmaj.で演奏する。これはギターソロなのでキーの制約が無かったため変更できたのだろう。さらに、ギター演奏の場合、その楽器構造から移調や転調が容易である(注)。
おもしろいのはキーをGmaj.とすることでやや明るい枯葉のムードになり、しっとり感は少なくなるが、冬に向かう覚悟そしてそこから生まれる緊張感が伝わる「枯葉」となっている。終盤では早引きのアルべジオにより、どの演奏者の枯葉よりも多くの葉っぱが舞い散る。
キーの変更と演奏テクニックだけでも従来聞いたことのない新鮮な枯葉に聞こえるのだが、コードの展開の仕方が音楽理論に従う部分より独創的部分が多いゆえにこの演奏を高度なレベルのオリジナル作品(二次創作)に押し上げている。
例えば、出だしにおいてリハーモニゼーションを理論から外したコード展開とし、聴衆に新鮮な印象を与えている。リハーモニゼーションのテクニック(形式知)については教科書その他を参考にしていただきたいが、「ジョー・パス ギター教本」には、経験知と暗黙知を引き出す種明かしが載っている。
すなわち一般の音楽理論と異なる独自の世界観を伝える練習法がその著書に書かれていたのだ。そこには英文の説明は無く、ただひたすら5線符に書かれたメロディーを運指練習せよとある。すなわち運指練習をしながら独自のリハーモニゼーションテクニックを含めたコードの響きを学ばせる工夫がなされている。
要するにその練習は、彼の経験知と暗黙知を伝える役割を担っている。その他、彼のギターソロによる「枯葉」は、メロディーラインこそ「枯葉」であるが、全く異なるオリジナル曲として楽しむことができる。
すなわち、音楽にも科学同様の形式知が存在するが、実際の演奏では、形式知だけでなく経験知や暗黙知が展開されて独創性が発揮されるとともに音の響きに新しさ、さらには「音使い」にイノベーションを起こしている。
これを芸術の世界の話、と狭い視野でとらえられてしまうと現在の連載の意味がうまく伝わらない。技術にも少なからずこのような側面があるので、弊社では形式知だけでなく当方の経験知と暗黙知の伝承に努力している。
これまで日本では仕事が少なかったので中国ナノポリスに招聘されたチャンスを活用し、当方の考え方をいろいろ試してみたが、当方の経験知や暗黙知は好感を持って受け入れられ、新技術によるコンパウンド工場を3つ建てることができた。どこかの笑い話ではないが、日本では「皆がやってます」と言わないと採用されないジレンマがある。
(注)クラシックギターでは、ハーモニーに対する考え方がジャズギターと少し異なり、拷問と思える指使いも必要になる。カルカッシの教則本では、そのための練習が多いが、ジャズギターでは分散和音を弾くときに合理的な指使いを行っている。また、クラシックギターの名曲「禁じられた遊び」では、標準的な運指方法が教則本に掲載され、多くのプロ演奏者も同じように演奏しているが、ジャズギターのソロの場合には自由度が大きい。
ところで「禁じられた遊び」には、学生時代と窓際になった時と2回挑戦している。窓際になった時にギブソンES335を購入した動機の一つに、松岡良治の手工ギターよりも弾きやすいネックの太さと弦のスケールがあった。エレキギターは数cmほど弦の長さが短いので押さえるポジション間隔がわずかに短くなる。
早期退職後断捨離のためES335を16万円で売り払ったが、コロナ禍における友人の決意を聞いて購入した7万円のアイバニーズのギターは、ES335よりも弾きやすい指板形状だった。ES335は価格が高いにも関わらず、個体間の品質ばらつきが大きい。ローズウッドの指板はエボニーで作られたそれよりもメンテが容易であるが、当方の購入したES335のそれは木目の粗さが気になった。ところが安いアイバニーズブランドのギター指板は同様のローズウッド指板であるにもかかわらず、緻密な杢目で高級感を放っていた。また胴のメイプル材も安価なギターの方が、いわゆる「トラメ」がきれいであり、2台並べるとどちらが高級なのかわからない。ストラティバリウスは同じものを作ることができないので高価になっているが、エレキギターは後発メーカーほど改良してよいものを出してくる。ピックアップもES335のそれよりもSN比が高くきれいな音質である。ES335はその独特の音色が存在するが、そこに価値を見出せる人は良いかもしれないが、ブランド名を聞かずその音を聞くと安っぽい。エフェクターが必要になる。
さて、昨年の夏改めて「禁じられた遊び」に挑戦し、ようやく村治佳織の演奏に合わせて弾けるようになった。苦節40年、良い道具を手に入れて努力は報われた。
カテゴリー : 一般
pagetop