2021.12/26 創造に科学は必要か(3)
住友金属工業(現在の日本製鉄)との高純度SiC半導体治工具のJVが計画されたころ、電気粘性流体開発プロジェクトのお手伝いを命じられた。命じられたが、電気粘性流体について業務説明も無ければ、研究論文の一切を読む必要は無い、という乱暴な扱いだった。
当時世間でいうところの係長職にあったのでそれなりの扱いをしてほしかったが、当時のゴム会社の研究所のスタッフにはそのような命令をする人が多かった。また、科学の研究者は、自説を押し通すためにそのような性格でなければリーダーが務まらないのかもしれない。
スタップ細胞の騒動をまとめた「あの日」を読んでも、そこに登場する人々は技術者から見ると不思議な人が多い。情報も何ももらえず、仕事を命じられる立場は、下僕と等しいのである。さて、そのような乱暴な扱いで命じられたテーマは「加硫剤も含め添加剤が何も入っていないゴム開発」だった。
当時すでに日本一になっていたゴム会社で非科学的なこのようなテーマを命じてきたのである。セラミッックスの研究を担当していた当方にこのようなテーマが巡ってきたのは、当時の研究所でゴム開発の経験があったのは当方だけだったからだ。
多少なりともゴムに詳しかった当方は1週間だけ時間をもらい、電気粘性流体の耐久性問題や電気粘性効果を安定にできる粉体などをアジャイル開発した。電気粘性流体がどのようなものかは詳しく知らなかったが、社内のプレゼンテーションで公開された情報程度は頭に残っていた。
その頭に残っていた情報程度で、ヒューリスティックな解を見出すことは簡単だった。換言すると情報が少なかったので材料合成のために考えなければいけない問題が絞られたのかもしれない。
驚くべきことに、データ駆動による一晩の実験で電気粘性流体の耐久性問題を解決できて、その後ほんの少しの実験で電気粘性効果を高める粉体を創造することができた。
この技術開発において、5年の歳月がかけられ研究所で蓄積された科学の成果を全く使っていない。セラミックスの研究で身に着けた経験知と暗黙知により創造された新技術を用いて、難問が解決され、世の中に存在しない傾斜機能粉体が生み出されている。
同僚に情報を出さない、という信じられない扱いのおかげで、電気粘性効果に関する科学の形式知が乏しい状況となったので、経験知と暗黙知をフル活用する必要が生じた。そこで使われたのは演繹論理である。
ただし欠落した知を補う必要から創造が行われる。そこでは非科学的あるいは未解明な科学的現象に潜む知などが混在し、推論が展開される。演繹論理では科学の一部であるが、その展開は非科学的だった。
マッハ力学史において、ニュートンの力学は非科学的成果に位置づけられている。その理由は、当方が電気粘性流体で展開したような推論だったからである。当方はマッハ力学史を読んでいたので、ニュートンの論理展開を学び電気粘性流体のアジャイル開発ができたのである。
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