2022.01/20 PVAの難燃化
1970年代塗料にも用いられていたPVAの難燃化を大学院で学んでいた時に実験した。塗料メーカーの方がご指導してくださっていた先生の所へ相談に来られたので研究テーマの中で取り組んだのだが、高分子の難燃化研究の黎明期であり、情報が少なかった。
極限酸素指数法(LOI)についてJIS規格もできていなかった。近くの女子大被服科にLOI評価装置があるという情報を得て挨拶に行った。年上の美人助手が対応してくださったのだが、評価技術についてご存知でも高分子の難燃化技術全体について詳しいわけではなかった。
とりあえず、LOIの評価装置をご指導いただく予定を設定していただき、翌日サンプル作成を開始した。ところが困ったことにPVAへ難燃剤(ホスフォリルトリアミド)の分散が難しいのだ。今ならばすぐに現象を理解でき、対策できるのだが、まだ学生だったので目の前の現象に立ち往生し、2日ほど何もせず文献調査しながら考えていた。
学内の高分子の専門研究者に相談してもフローリー・ハギンズ理論を持ち出されて当たり前で終わった。PVAというポリマーへの添加物の分散性が単純にχやSPだけで定まるわけではない、という情報をくださった人は誰もいなかった。
PVAを実際に扱いよくご存じの方ならば、PVAというポリマーが自己凝集しやすく水に溶かすのもひと工夫必要であることに気がつき、加温しながら攪拌するプロセスに気がつくのだが、無機材料の講座だったのでそのようなテクニックさえ誰も知らない。
驚くべきことに高分子合成の講座の先生さえもご存じなかった。優秀な先生だったが、当時は高分子物性の研究レベルはその程度であり、合成研究が盛んにおこなわれていた時代である。新しい高分子を合成し、その物性について研究するというテーマを扱っている講座もあったが、PVAの特異な性質をご存じなかった。
無駄に4日過ぎ、LOIの装置を借りる日が迫ってきた。年上の美人助手の顔が思い浮かんだ時に突然アイデアがひらめいた。ホスフォリルトリアミドにホルマリンを付加させてメチロール基を生成させればPVAの水酸基と反応するかもしれない、というアイデアである。
PVAと水、ホルマリン、ホスフォリルトリアミドを攪拌しながら加温したところ、均一溶液になった。この先は色材協会誌の論文に記載したとおりだが、問題とは全く無関係のくだらないことを考えてみるとアイデアがひらめくものだと学んだ。
無事PVAの難燃化に成功するのだが、実験に成功したことよりも、アイデアの出し方を体得した成果の方が大きい。すなわち、アイデアというものはそれを深刻に考えていても出てこないが、一瞬その行為を忘れるような思いにふけった時に閃く、ということだ。
この経験知は今も役立っており、良いアイデアが思い浮かばない時にはあっさりと思考をやめて、ギターの練習に励むことにしている。15分も練習していると突然閃くから不思議である。
これゆえ、ギターの練習は15分程度で終わるので、なかなかうまくならない。また、2年前購入したギターはいつの間にか座右に置かれるようになった。ただし、無い袖は振れないのでギターと一緒に今はモーターの専門書が置かれている。
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