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2022.02/02 ハラスメント(2)

40年以上前の出来事なので、ここで公開しても時効として許されるだろう。新入社員の技術開発実習発表会における出来事だ。当方はグループでまとめた「タイヤの軽量化因子」について、この実習の成果として試作されたタイヤを前に置き発表していた。


発表が終わり、CTOから「君が目標としている軽量化タイヤとは何か」という質問があった。これは事前に想定される質問として回答が用意されていた。


すなわち、軽量化因子についてコンピュータIBM3033で処理を進めた段階的重回帰分析により軽量化した時の到達重量を計算として出していた。実は、試作されたタイヤは計算値より3%ほど重かったので、計算値をプレゼンテーションでは示さず、試作タイヤの重量を示していた。


あらかじめ用意していた計算式と最低重量、試作タイヤの重量増の原因を示し、自信をもって回答した。指導社員からは、当時一般的に行われていたリバースエンジニアリングの手法により解析を指導されたのだが、せっかく多数のデータが得られたので科学的にまとめなおそうと、新入社員で自主的にマテリアルインフォマティクスしたのだ。


このような事情もあって、当方は自信満々科学的にプレゼンを行い、質問に対しても科学的に丁寧に回答をしたところ、CTOから「大馬鹿モン」と会場全体が凍りつく程の大きな声で叱られた。


発表していた当方は、張りつけ状態となり、CTOの講評を聞くことになった。講評は「科学的に解明できても市場で品質問題を起こす可能性があるのがタイヤだ。実地試験でその品質が確認されない限り、タイヤとは呼ぶな、」という科学的な発表内容を全否定し技術とは何かを熱すぎるくらい熱く語った内容だった。


今、世の中ではマテリアルインフォマティクスが話題である。40年前マイコンが登場したばかりの時代に大型コンピューターを用いた多変量解析により、「科学的」に解析した成果で、今ならばハラスメントになりかねないシーンが展開された。


しかし、その場にいた誰もがこれをハラスメントとは思っていない。発表会終了後、懇親会が開かれた。そこには人事部の役員は出席していたが、CTOは出席されていなかった。


後に社長となられたこの役員は優しかった。「とんでもない雷が落ちたが、気にしなくてよい。立派な発表だった」とねぎらってくれた。


役員が去った後、人事担当者が当方の発表に関わったメンバーが集まっているところへ来て、「CTOは指導された方たちへ雷を落としたのであって、君たちのことは褒めていた」と新入社員に配慮した言葉をかけてくれた。


当時ハラスメントなる概念すらなかった。むしろ、叱咤激励に熱を入れ過ぎた行為ぐらいに思われていた時代である。今ならばハラスメント体質の組織が日本中で常識的に存在していた時代である。


一方で今でいうところのハラスメントを受けたメンバーに配慮し、優しく励ます風土も存在していた。ゴム会社は、荒削りでありながら従業員に優しいところがある風土と社会で思われていた。懇親会ではそれを感じるに十分なアルコールと料理が用意されていた。

カテゴリー : 一般 連載

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