2022.10/09 データサイエンスと技術者のスキル(4)
ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームの研究は学位論文に掲載されている。ここでは燃焼時の熱で、ホウ酸エステルとリン酸エステルが反応してボロンホスフェートの得られることが示されている。
学位論文なので科学的な分析結果を用いて掲載しているが、それ以外に重回帰分析結果もそえて解説している。今ならば、偏回帰係数の考察からでも科学論文として成立する時代かもしれない。
ホウ酸エステルは難燃効果が小さい。LOIが18.5の軟質ポリウレタンフォームを19に改善する程度なので、ほとんど機能効果が無い、と言っても良いかもしれない。
ところがリン酸エステルと組み合わせると、LOIに対してリン原子と同等の寄与率までその機能効果は上昇する。これは、単相関では明らかにできず、重回帰分析で得られる偏回帰係数の考察を行い初めて明らかとなる。
このことから、燃焼時にホウ酸エステルが積極的にリン原子に働きかけて難燃効果を発揮していることを理解できる。ゴム会社の研究所ではこのような考察では馬鹿にされたので、熱分析装置やIRなどを駆使して燃焼時の現象を動的に解析している。
そして燃焼時にボロンホスフェートが生成すること、またそれによりリン酸エステルからオルソリン酸となって揮発するリン単位が無くなることなどが実証された。
アカデミアよりもアカデミックな研究所だったので多変量解析の結果には誰も関心を示さなかったが、この燃焼時における動的解析結果には高い評価をしていただけた。
しかし、これらの研究がたった6か月間で行われていること、工場試作まで成功し実用化されていることなどが分からなければ、データサイエンスのありがたみが見えてこないと思う。
科学の研究アイデアを練る時にも現象についてデータサイエンスによる理解は時間短縮のために必要である。ああだこうだ、と議論を重ねるのも必要だが、時として電気粘性流体の耐久性問題で経験したように群盲像をなでるようなことになりかねない。
しかしデータサイエンスで科学的に現象のデータを整理して得られた考察は、十分に科学的だと信じてきた。科学と非科学の境界が動き、ようやくそれが許される時代になった。
禁教令のあった江戸時代の隠れキリシタンのような気分でいたゴム会社の研究員時代を懐かしく思い出した。このような仕事のやり方を進めていたらFDを壊されるなど実害が顕著になったので写真会社へ転職している。
カテゴリー : 一般
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