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2022.11/18 データサイエンスとトランスサイエンス(1)

科学で問うことができても、科学で答えることができない問題が増えてきたが、トランスサイエンスという言葉は、科学論が活発に論じられた1980年代末にアメリカで生まれている。


日本ではバブル崩壊とともに科学論も立ち消えになったが、1970年前後からの企業の研究所ブームもバブル崩壊とともに見直しが起きている。


1979年にゴム会社へ入社し、当時最先端材料だった樹脂補強ゴムの開発を3か月で仕上げた後、ポリウレタン発泡体の難燃化技術を担当した。


その時、世界初の難燃化技術を開発せよと命じられたので、ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームを企画し、半年で工場試作まで仕上げている。


ところが、始末書を書かされた話を以前この欄で紹介しているが、未だにこの時の始末書の意味が不明である。命じられたゴールを実現し、特許や論文にもまとめ名実ともに世界初の難燃化技術だった。


上司は、特許の発明者は自分を筆頭にしろと言われたので筆頭にしているが、工場試作の成功の責任は当方が負うことになり、始末書を書かされたのだ。工場試作を命じたのも上司であり、急な予定変更で、工場試作の準備のために過重労働をさせられている。


工場試作を突然行うことになったのは、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの難燃化レベルが高ったからである。半年間の開発業務において、その難燃化機構についても解析している。


燃焼という現象は急激な酸化反応であり、非平衡で進行するので、典型的なトランスサイエンス現象である。しかし、それを科学的に解明せよ、と言われたので、燃焼時のオルソリン酸の揮発量はじめ、様々なデータを収集している。


科学的に解明が難しい現象については、仮説設定よりもとにかくデータを集めることが先決である。現象から科学的手法で得られるデータを絞り出し、科学で証明が難しい現象について多数のデータから考える方法が効率的だ。


これを科学的にとらわれて仮説設定しデータを集めてみても、非平衡で進行している反応を完璧に証明できず、否定証明の報告書を乱発することになる。


トランスサイエンス現象については、科学的に測定可能なデータをとにかく集め、科学的に確からしい多数のデータから何が起きているのか解析的に想像を進める以外に方法は無い(ユークリッドはこのようにして図形の問題を解いていたのかもしれない。そして、経験的に一本の線を引くヒントを身に着けたのだろう。科学誕生以前にユークリッド幾何学は生まれている。)。


ゴム会社の研究所には、これを頭が悪いから、と笑っていた人がいるが、その人が今マテリアルインフォマティクスへ真剣に取り組んでいる研究者を見たら、大笑いするかもしれない。


科学と非科学を厳密に分けていた時代があった。そのような時代に新QC7つ道具と出会い、データサイエンスの可能性について研究するのは大変だった。


しかし、ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームや高純度SiCの事業化、電気粘性流体の耐久性問題解決など科学的に取り組んでいたら出せなかった多数の成果を出すことができている。

カテゴリー : 一般

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