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2022.11/21 データサイエンスとトランスサイエンス(4)

ゴム会社に入社した時、いわゆる技術者としての専門は、無機材料化学と合成技術者だった。合成技術者としては、天然物合成の論文をアメリカ化学会誌に掲載されただけでなく、ポリホスフォリルトリアミドの反応解析をアメリカの無機材料化学専門誌に掲載されたので、恐らく当時世界に一人の有機無機合成技術者だった。


入社した年に高分子学会内に無機高分子研究会が設立されているので、世界に一人のという形容は大げさではないと思う。また指導して下さった大学の先生がそのように称して社会へ送り出してくださった。


しかし、その就職先がゴム会社では専門能力をどのように発揮してよいのか、とまどった。新入社員のこの戸惑いを年配の指導社員は十分に配慮してくださった。驚いたのはその年齢で、世間の係長職に昇進したばかりだという。そして小生が初めての部下だった。


指導を受けてすぐに理解できたのだが、高いレオロジーの専門性と穏やかな人格の技術者で昇進がここまで遅れるような研究所の人事評価に震撼した。ゴム会社の厳しさを学ぶことができた指導社員だった。


研究所の人事の厳しさのためなのか、いろいろと研究所で生きてゆくための知恵を教えられた。企画は必ず文書として残し、上司に見せるまでは他の人に見せない方が良いとか、社内における機密の扱いには厳しかった。


また、研究をやりたいなら開発をやり終えてから研究をした方が良い、というアジャイル開発とよべる考え方も指導してくださった。ただし、一番役立ったのは、物性データからどのように高分子材料を考察するのか、というレオロジー専門家としての高い形式知と経験知からの学びである。


毎日9時から12時までの3時間、高分子の知識が乏しかった当方にレオロジーを基礎とした高分子材料科学の座学を3か月熱心に指導してくださった。


指導社員がシミュレーションされたデータとゴム配合の関係や、その実際のゴムの粘弾性データとの関係の説明は圧巻だった。今のMIにもつながる側面もあり、大学よりも実践的でありながらアカデミックな色彩もはなつ、当方が受講した講義の中で人生最高の講義だった。

カテゴリー : 一般

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