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2022.12/12 科学で解けない問題

トランスサイエンスという言葉が一般化したので、今時科学ですべての技術の問題を解くことができると思っている人はいないだろう。


しかし、バブル崩壊直前までは傲慢にも科学ですべての問題を解くことが可能と考えていた人は多い。現象を大局的に捉え、科学でどこまでアプローチできるのか考える習慣さえも否定されていた時代がある。


少なくとも当方が経験した研究所ではそうであった。例えば製品開発を行う時に、そこで必要となる材料の機能がどのように発揮されているのか知る実験を優先して行っていると馬鹿にされた。


難燃性ウレタン発泡体では、リアクティブブレンドで反応バランスをとりながら発泡化を行う必要があるが、1980年当時リアクティブブレンドの経験知の体系は知られていたが、難燃剤を添加するとその影響で反応バランスが崩れる。


このような製品開発では、重要な機能の制御因子を調べる実験と反応バランスを制御する因子を調べる実験とを並行して行うと効率が良いのだが、前者の実験を無駄な実験と考える人がいる。


しかし、反応バランスを制御する因子について形式知が明確になっていない場合には、反応バランスを制御する因子を科学で明確にできる保証はない。だから基礎研究を行うのだ、と当時よく言われたのだが、製品開発ではスケジュールが決まっているものである。


基礎研究からやっていては計画を立てられない場合もある。詳細な議論を省くが、とりあえず新製品に必要な機能を見定めてから基礎研究を行うことが良いと思っている。


この方法を推し進めるとアジャイル開発となるのだが、社会人1年生にはそこまで思いが至らない。それでも新製品を実現できるのかどうか、最初に見極めたいと考えて難燃剤の機能研究を優先しながら発泡研究を行っていたら叱られた。


始末書も納得できない出来事だったが、両方並行して進めていたのだから叱られる理由がわからなかった。発泡研究だけに専念しろ、と言われても、調査結果から形式知が不足していることは明確であり、不足している形式知を明らかにしても、その結果が製品開発に直接寄与しないことを誰もが知っていた。アカデミアよりもアカデミックな研究所の思い出である。

カテゴリー : 一般

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