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2023.01/19 非平衡状態(3)

2005年に豊川へ単身赴任し、PPS/6ナイロン/カーボンの配合による半導体無端ベルトの押出成形の量産を立ち上げた。前任者が6年近く研究開発された技術だったが、試作段階で歩留まりが10%以下であり、半年後の量産にそなえ、窓際だった当方にバトンタッチしたのである。


前任者は大変良い判断力の人である。窓際で平衡状態になっていなかった、まだ活性の高かった当方に相談に来たのが良かった。窓際で2-3年過ごしたサラリーマンは大抵平衡状態になり、そのまま定年を迎えることになる。


窓際の居心地が悪かった当方は、2010年に早期退職する覚悟を決めて、ゴム会社の新入社員時代に指導社員から宿題として出されたカオス混合プロセスをいきなり量産で試してみる決断をした。


また、技術が暗礁に乗り上げた状態だっただけでなく、配合はそのままで、と言う条件付きだったのもこの決断をしなければいけない要因だった。


窓際で非平衡状態だったので決断も早くできた。コンパウンドメーカーの技術者にアイデアを話したところ断られた話は、この欄に何度も書いているが、断られても活性の高い状態は収まらず、中古機を集めて半年でカオス混合によるコンパウンド工場を立ち上げている。


この時、プラントが完成した最初の混練では、PPS/6ナイロンはじめ各種のナイロンとのプレンドサンプルを作成している。カオス混合の効果を確認するためである。この時当方は驚かなかったが、中途採用した優秀な若者は最初に流れ出したPPS/6ナイロンの溶融樹脂を見て腰を抜かしている。


この腰を抜かすところが大変優秀な証拠であり、高分子科学を知らない人ならば驚かない現象が目の前で起きたのである。フローリー・ハギンズ理論に従えば、不透明で白い溶融樹脂が吐出されるはずだった。


それが透明な樹脂液として出てきて、透明ストランドを引くことができたのだ。それもPPS単独よりも透明度の高いストランドを引くことができた。


PPS単独よりも透明度が高くなった理由として、完全に6ナイロンが相溶し、PPSがアモルファス状態だったからである。当方はこの時は驚かなかったが、12ナイロンまで透明だったのは少しびっくりした。


その後、在職中密かにこのストランドを机の引き出しから出して眺めるのが楽しみの一つになった。誰も見ていないことを確認して、こっそりと引き出し、ストランドを眺めて、にやりとする、と書くと誤解を受けるかもしれないが、いつ透明度が下がり不透明になるのか心配だっただけである。

カテゴリー : 一般

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