2023.02/24 ホスファゼン変性ポリウレタン(4)
ポリウレタン発泡体を製造するために、発泡反応と重合反応のバランスは重要である。この反応条件を見出すには、経験知が必要となる。
しかし、経験知があっても試行錯誤では実験工数が多くなる。例えば、反応途中のゲル強度がマトリックスを構成するポリエーテルポリオールの種類により変化するからである。
このゲル強度を調べるために重量のそろった真球の鉄球を落下させてプロファイルを調べる方法が外国の論文から見つかったので、それを追実験しようということになった。
ところが重量のそろった鉄球の値段が高すぎる、と課長が言い出した。パチンコ玉なら一個3円弱だと冗談で提案したら、今すぐパチンコ玉をとってこいと驚くような指示が出た。
それで久米川駅近くのパチンコ店で2時間ほどパチンコを行い、4箱積み上げることができた。それを店外に持ち出そうとしたら、店員に引き留められた。パチンコ玉は貸与品なので持ち出せないという。
それで店長と交渉し、廃棄予定のパチンコ玉をバケツ1杯と正規に取得した4箱分のパチンコ玉と交換してもらった。この廃棄予定のパチンコ玉を見て驚いたのは、皆その店の刻印と異なるパチンコ玉だったことである。
店長の話では、このような問題があるので、取得したパチンコ玉の店外持ち出しを禁止している、と説明してくれた。その他パチンコ玉を頂くためになんやかやとあったが、とにかく100円でバケツ一杯大きさと重量のそろった鉄球を手に入れることができた。
しかし、100円の領収書を請求してももらえなかったので、ゴム会社に寄付することになった。当方が課長ならば、仕事で使用する鉄球を100円で調達してきた功績に対し金一封として自腹で払ったかもしれない(ただし当方ならばこのような指示を部下に出さない。高くても正しく発注する。この件に限らず、新入社員でも心配となる何かとおかしな判断と指示を出す上司だった。)。
そのまえに、パチンコ屋の店長の説明にあったが、パチンコ玉は業界以外に販売できないルールだそうで、パチンコ玉をとってこいと、おかしな指示は、今ならばコンプライアンス違反だ。
ところで驚いたのは、店名が異なっているパチンコ玉でもその重量の偏差は0.2%未満だったことだ。錆びた玉を除去すれば0.1%未満だった。
ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの工場試作に成功して、課長から始末書を書くように言われたが、その理由の中にこのパチンコ玉事件は入っていない。
市販されていない試薬を用いて工場試作を成功させたことだけが始末書の理由だった。パチンコ玉のほうが、業務中の課長命令ではあったが納得できたのかもしれない。これは業務中のパチンコ遊戯という少し罪悪感のある思い出である。
しかし、パチンコ玉のおかげで反応途中のゲル強度プロファイルデータを迅速に収集することができた。大量に使用できたので洗浄する手間も省け、効率的に実験を行うことができた。学生時代に身に着けた「ムダ技」が活きた思い出である。
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