2023.06/08 高分子の劣化
金属やセラミックスの劣化機構とその予測に関して、科学でほぼ説明できるレベルにあり、御巣鷹山の飛行機事故についてはフラクトグラフィーを用いた解析で、圧力隔壁の修理不適切な部分からの疲労破壊が原因だったことも裁判の判例として残っている。
同様のことが高分子材料で起きていたらおそらく判例のようにうまくまとまらなかったのではないか。例えば、10年以上前に複写機外装材のボス割れについて明らかにコンパウンド起因と技術的に解析できたが、科学的証明が困難だった。
コンパウンドメーカーと議論しても平行線となって結論が出ず、現場監査となって混練機の温度管理が不適切でスの入ったペレットを生産していた現場を動かぬ証拠とした。しかしそれでもコンパウンドメーカーは科学的な証明ができていない、と主張していた。
この問題は、科学的になかなか結論が出せず、結局混練プロセス管理の徹底によりスの無いペレットを納入することとして幕引きとなった。
その後ボス割れが発生していないことから、技術的に予想されたスの入ったペレットが原因だったことの証拠と思われたが、それでもコンパウンドメーカーは非を認めなかった。
高分子成形体の劣化の場合に、コンパウンド起因と科学的に説明が難しい理由は、高分子材料について科学的に完璧な記述が難しいことによる。
溶融状態の高分子科学についても未解明な現象がまだある。それが成形体となってもその成形体物性を科学的に完璧に説明できない。これに時間の要素が加わった高分子の劣化問題について、科学の研究は易しいが実務における現象を説明することは難しいトランスサイエンスである。
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