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2023.07/08 技術の伝承に関する体験

特公昭35-6616という写真感材の帯電防止技術に関する特許がある。世界で初めて酸化スズ薄膜を塗布で形成した透明導電膜の発明である。この特許の直前にITO蒸着技術の発明が多数なされている。


当方が写真会社に転職した時にこの特許技術を否定する否定証明の報告書が出されていた。すなわち高純度酸化スズには導電性が無いので帯電防止剤として使用できない、と結論された報告書である。


実験データと考察が優れた論文であり読んだ時に感心したのだが、写真フィルムの帯電防止技術に関する調査を行っていて特公昭35-6616特許を見つけた。


否定証明の報告書からこの特許はいわゆるペテントとなる。しかし、この特許が公開された後、ライバル2社から金属酸化物を用いた帯電防止技術に関する特許出願が増えているので疑問が出てきた。


そこでこの特許の実施例に基づき実験を行ったところ、パーコレーションの問題に気がつかなければ否定証明となる技術であることに気がついた。すなわち実施例通りに実験を行うと、二通りの結果が得られる。


一つは帯電防止層としての機能が発揮される実験結果であり、一つは否定証明通りの結果である。特許の実施例に書かれていない実験条件があり、それが新規技術と思われたので、あわてて特許出願をまず行った。


すなわち、特公昭35-6616に書かれた実施例の方法は不完全な記述で当方の特許の実施例通り実験を行えば、必ず帯電防止層を安定に製造できる。


当方の特許は改良特許として成立したのだが、昭和35年から平成3年の間に誰もこの改良技術を気がつかなかったことに驚いた。


それだけではない。その特許は当方が転職した会社の特許であり、大変優れた技術に関わらず、それがまったく伝承されていなかったことに転職した会社の技術経営に対して絶望感さえ感じた。

カテゴリー : 一般

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