2023.12/11 データの解析力(5)
当方は、構造不詳の界面活性剤も含めて、メーカーのカタログデータを取り寄せ、主成分分析を行っている。その結果、第一主成分は、HLB値に強く相関する因子として特徴づけられたが、訳の分からない第二主成分の因子が気になった。
第二主成分を細かく検討したところ、原因は不明だが界面活性剤の粘度と高い相関が見出された。そこで第一主成分と第二主成分の象限において主成分得点の分布を観察したところ、第一主成分の周辺に集まったサンプル以外に、第一主成分の軸から離れたところに3群ほど異なるグループが出現した。
そこで、増粘した電気粘性流体を300個ほどサンプル瓶に分取し、1%づつ界面活性剤を添加し、一晩放置してみた。この実験で驚くべきことに、第一主成分の軸から離れたところの群に属する界面活性剤が添加された瓶で粘度の減少が観察された(主成分分析からサンプル瓶準備まで24時間以内に行われている。当時はパワハラや過重労働など当たり前の時代だった。)。
メカニズムは不明だが、こうして見出された界面活性剤で耐久促進実験を行ったところ、1日経っても電気粘性流体の増粘は起きなかった。さらに1週間延長しても電気粘性流体の機能は初期性能のままだった。
こうして、電気粘性流体の増粘問題は解決されたのだが、科学的にHLB値だけで説明できないことが分かった。この結果を出してから、会議の前になるとデータFDが壊れるという怪しげな事件が起きるようになった。
電気粘性流体の問題は、科学的に否定証明されたが、非科学的方法で解決することができた事例である。データの解析力(1)においてカオス混合の事例を書いているが、この他にも、高純度SiCの前駆体合成技術はじめ当方の発明の大半は非科学的方法でなされ、その後発明を科学的に意味づけている。
そしてそのいくつかについて科学的にデータ収集しそれを解析し学位を取得している。また、来年3月の日本化学会春季年会では、40年以上前に「科学的に証明されたガラスを生成してポリウレタンを難燃化する技術」について、最新のアルゴリズムを用いた非科学的方法でデータを解析し、そのメカニズムを推定した結果について発表する。
すなわち、過去のスタイルと逆を行い、データサイエンス(マテリアルズインフォマティクス)(注)で遊んでいるのだが、ご興味のあるかたは3月に開催される日本化学会の講演を聞きに来てください。参加料を日本化学会に支払えば当方の講演以外の多数の講演を3日間聞けるコスパの高い講演会である。
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(注)入社して10か月後に高分子材料の難燃化技術研究を担当しているが、高分子の難燃化技術も燃焼という非平衡で進行する現象であり、トランスサイエンスとなるケースは多い。ゆえに、テーマを担当した当初からデータサイエンスを駆使して仕事をしていたら、上司である主任研究員から、「趣味で仕事をやるな」とか、「仕事は遊びではない」、「統計でモノはできない」、「それほどコンピューターを使って仕事をしたいなら、自分で買え、ローンの保証人になってやる」とか言われた。そして、MZ80Kにプリンターやフロッピーディスクなど周辺機器をそろえた状態の環境をローンで揃えている。初任給10万円の時代に80万円のローンで、保証人には上司の印が押された。このMZ80Kのセットが独身寮におかれてから、週末プログラマーの日常が始まっている。「花王のパソコン革命」という本が影響したのだが、研究室のOA用のプログラム開発を休日に行うことになっていた。昔はパワハラだけでなく、このようなことも耐えなくてはいけないサラリーマン生活だった。しかし、科学的に完璧な技術開発が難しい難燃化研究では、データサイエンスが重要で、さらにOA化のためにはプログラム事例が必要となり、それまでIBM3033を使っていたのだが、その使用料が予算外となることを嫌った上司からコンピュータを自前で揃えろという指示が出ている。マイコンが登場していて当時は胸をなでおろした記憶がある。IBM3033など家1件立てるほどのローンを組む必要があったが、カローラ1台分のローンで済んでいる。最近ビッグモーターにおける街路樹の伐採や、ゴルフボールで車をへこませる指示などが話題になっているが、担当者の自己実現には役立っていない。当方にとっては常識はずれのとんでもない指示を出していた上司だが、自己実現に役立っておりデータサイエンスは45年の学習歴である。最近お亡くなりになったと伺い、今となっては感謝の気持ちでお通夜に参列している。
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