2024.05/06 データサイエンスと私(14)
多くの燃焼試験における数値データは、ばらつきが大きいが、極限酸素指数(LOI)測定装置は、用いる部品を精密化するとばらつきを小さく設計でき、精度の高い測定ができる高分子物性評価装置となる。
フェノール樹脂は、耐熱性高分子に分類されるが、製造条件等が管理されなければ、空気中で燃えやすい、すなわちLOIが21以下の樹脂となる。
この実験結果が出た時には驚いた。これは耐熱性高分子の研究が行き詰まった理由を納得できる経験となった。高分子は製造条件の少しの違いで高次構造が変化している。
耐熱性や燃焼性がこのわずかな高次構造の違いに影響を受けることを御存じない方は多い。また、その影響の度合いを説明するのが難しい。さらに高分子の種類により、その影響が異なっている。
このような問題において、データサイエンスによる解析は有効な情報を与えてくれる。ところが、データサイエンスを身につけていない研究者が、この現象を取り扱うと、わけのわからないこじつけ仮説の結果を導く。
耐熱性高分子の研究が破綻したのもデータサイエンスの無い時代の研究だったからである。フェノール樹脂について、その高次構造解析が難しいので、研究そのものも難易度が急激に高まる。
しかし、LOIが高次構造と関係していることに気がつけば、データサイエンスを用いて高防火性の耐熱構造設計を行うことができる。
フェノール樹脂の難燃性について、筑波にある建築研究所と少し共同研究を行っている。宅配便の利用が普及していなかった時代で、ヘルメットと安全靴、サンプルを携え、常磐線荒川沖駅で降り、満員バスに揺られた思い出は、肉体的にも精神的にも辛い経験となった。
2日間に渡る実験でも宿泊出張を認めてもらえず、久米川から通っている。帰り道、常磐線で眠ってしまい、上野駅で駅員に起こされた。寝たのが西武線でなくてよかった、という思い出は今でも忘れられない。
独身だったので、私費でもよいから宿泊したいと申し出たが、上司から業務であることを理由に必ず日帰りとするように言われた。部下の疲労よりも経費節約の方が優先された時代である。
もう少し知恵があったなら、上司には日帰りと告げてこっそりと宿泊して仕事をする賢いサラリーマンの考え方(注)をできたのかもしれない。
しかし、グラフにうまく合うデータ処理に知恵が回っても、サラリーマンの生活の知恵はなかなか働かなかったことが問題だったのだろう。
(注)往復の交通費を考慮すると、ホテル代4000円を私費で払っても宿泊したかった。管理職の年収が新入社員の年収の4倍以上あり、部下は消耗品のように扱われ、パワハラ等ハラスメントは日常だった時代である。ドラッカーの著書がベストセラーとなっていてもマネジメントなるものがうまく実践されていなかった。管理職が研修でいない日があったが、研修から1週間ほど不自然に優しく不気味だったが、1カ月もすれば日常に戻っていた。今のように過重労働やハラスメントが社会的な問題とされることが無かった。データサイエンスも情報工学科設立ブームの時に話題となったが、セラミックスフィーバーとなったら社会から消えてしまった。しかし、マイコンの進化は止まらず、16ビットの時代となり、アメリカではC言語がBASICよりも使われるようになった。ライフボート社はLatticeC(本体は20万円)を日本で独占販売し、データサイエンスのライブラリーはじめ各種ライブラリーを3万円前後で輸入販売していた。ソフトウェアー代30万円ほどかければデータサイエンスを手軽にできるMS-DOS環境となった。時間のかかる処理をバックグラウンドで実行できるWindowsライブラリーも販売されていた。
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