2024.05/11 データサイエンスと私(16)
外側に相関係数を用いて実験計画法を行うアイデアは、フェノール樹脂天井材の開発前に完成していたが、このアイデアに至った背景を書いてみたい。
ゴム会社は、新入社員研修の一環として日本科学技術連盟(日科技連)のBASICコースを1年間受講する仕組みがあった。一人50万円かかるこの研修を修了できなかった場合には、給与から研修費用を天引きする制度だった。
ゆえに皆必死で勉強するのだが、最後の修了証をもらうためには、職場で課題を見つけ、実験計画法で実験し、それをレポートとして提出しなければいけなかった。
タイヤ開発部門では実験計画法による開発が定着していたが、研究所ではBASICコースを業務に活かすことさえ軽蔑されていた。すなわち、その学習成果を業務に用いると馬鹿にされたのだ。
また、実験計画法にも問題があった。実験計画法で求めた最適条件がたびたび外れるのだ。当方もこの洗礼に泣かされた。しかし、外れても実験計画法を使い続けてみた。そして外れる原因が、外側に実験結果を直接用いていることに気がついた。
すなわち、ラテン方格の内側因子と外側因子の誤差との交互効果の現れ方に、内側因子の配置が考慮されていないと、内側因子の交互効果が原因で、最適条件が外れるのである。
それで、外側に信号因子を取り出し、相関係数を割り付けることで、その影響を小さくでき、最適条件の当たる確率が高くなる。タグチメソッドと同じ理由である。
この手法で、高純度SiCの開発や、カーボンを助剤にしてホットプレスの最適条件はじめ半導体治工具事業で使用された基本技術が無機材質研究所で実験されて開発された。
故田口玄一先生がアメリカでタグチメソッドの普及をされているときに、タグチメソッドに類似した手法を編み出すことができたのは、技術開発の自信につながる人生の思い出の一つである。
研究所では、科学の手法ではないと否定された(注)が、統計手法そのものは科学的統計などという言葉を使われる研究者もいるように、科学の実験データの整理に使うことはおかしいことではない。
むしろ、「科学」をことさら押し付ける考え方の方がおかしいのである。科学は哲学の一つであり、科学以外にも問題解決に有効な哲学が存在する。
マテリアルズ・インフォマティクスは、科学の方法として捉えると、イムレラカトシュが指摘している理由により、科学の方法とならない。
しかし、数理モデルで問題を解く手法、広義ではデータサイエンスを活用する方法を用いると、科学で解けない問題を解くことが可能だ。
また、ガリレオやダ・ビンチの芸術的な成果は、無理に科学の方法として結び付ける必要などなく、彼らの思索方法を素直に拝借して、そこに科学の方法をフュージョンさせる現代的な問題解決法を生み出すことも可能だ。
当方が、ゴム会社の研究所で「科学の方法ではない」と馬鹿にされながら「問題解決法」を研究していた時に、音楽の世界では、クロスオーバーとかフュージョンとか呼ばれる音楽が流行していた。
また、企業方針として日科技連の手法を定着しようとしていたゴム会社の当時の人事部は、偏執狂のごとく科学で凝り固まった研究所の体質を変えようと努力していた。
「人事部の犬」などと周囲に馬鹿にされながら、実験計画法はじめ日科技連の研修の学習成果を業務に根気よく使い続けた理由は、それがデータサイエンスの一手法だったからである。
(注)ゴム会社で12年間務めたが、当方の研究開発手法に対する批判は、日ごとに陰湿になっていった。セラミックスフィーバーのさなか高純度SiCの半導体治工具事業について、昇進試験の問題「あなたが開発したい新規事業について述べよ」の解答に書いたところ0点がつけられ、それが人事部長から無機材研に電話で知らされた。これがきっかけとなり現在も続く事業が存在するのだが、この実話はフロッピーディスク事件以外に様々な事件がその後起きるほどのイノベーションだった。バブル崩壊後GDPが30年停滞している現象を当方の人生経験から眺めると、イノベーションなどやめてサラリーマンが健全な精神になろうと努力してきたように見えてしまう。当方はイノベーションを起こすことにより、問題解決法すなわちアイデア創出法を創り出すことができた。実際には、科学的に考えることにより、当たり前のアイデアしか出せない問題の改善提案に過ぎないが、その程度の手法の一つが、現在マテリアルズ・インフォマティクスとしてもてはやされているので、セミナーとして用意している。弊社の問題解決法のセミナーはデータサイエンスを一手法として採用しているが、それはあくまでも一手法としてである。むしろ、科学的に考えて解けない問題を解く方法という広義の内容である。
カテゴリー : 一般
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