2024.07/06 難燃化技術とAI
高分子の難燃化技術について研究が活発化したのは、1970年代である。1960年代までは耐熱性高分子に関する研究が主流だった。
70年代には、東北大村上研が翻訳した高分子の難燃化技術に関する学術書が出版されている。それ以前は、火災の現象と難燃性を記述した書籍が出版されているくらいで、専門書というよりも実務書である。
すなわち、燃えにくい材料とはカクカク云々であり、このような分野では石膏ボードと組み合わせて使うとよいという説明である。
学生時代にPVAの難燃化研究をまとめて、色材協会誌に投稿しているが、困ったのは過去の研究情報が少ないことだった。ケミカルアブストラクトを調べてもPVAの難燃化が難しいことや、添加剤の分散の難しさ程度の情報しか捕まらない(注)。
学生時代の調査に専任できる状態で1か月かけてもこの程度の知識しか得られない。ゴム会社に入社し、軟質ポリウレタンフォームの難燃化を担当した時には、まず、現場にゆき1日かけて経験知を取得している。
当時アメリカのゼネラルタイヤが開発した塩ビと三酸化アンチモンとの組み合わせ難燃化システムが採用されていたのだが、難燃剤の分散性が悪く沈降など問題があった。
すでに現場に技術がある時の調査は楽であった。素材の探索だけで済んだからである。すなわち、製造方法などから実験手順や評価方法の大半の情報を得ることができた。学生時代よりも調査が楽であった。
これらの経験から、まったく知識の無い分野の調査と技術が現場にある時の調査では、その手間と時間が異なることを実感できた。学生時代には、評価手段の調査とその技術獲得にも苦労した。
最近、まったく予備知識の無い分野で、AIを用いて企画を立案して、その簡便さに驚いている。寝転がって1時間ほどキーボードをたたいていたら、パワーポイントまで出来上がってしまうのだ。
そのパワーポイントを某大学の若手に送ったところ、面白いから産学連携で進めましょう、となった。ちょっと待て、と言いたかったが、AIの企画に間違いが無かったことが確認できた。AI恐るべし。
(注)ホスフォリルトリアミドの重合研究をやっていて、その応用分野として高分子の難燃剤が期待された。世界でも誰も研究していなかった。たまたまPVAが試薬としてあり、難燃化が難しい高分子だから難燃化出来たら面白いかもしれないと、先生に言われたので実験をした。しかし、難燃剤の分散がうまくゆかない。先生は、とりあえずその状態で評価したらどうだ、ということになったが、当方は不満だった。そこでホスフォリルトリアミドをPVAの反応型難燃剤としてデザインして、PVAと反応させた。塗料としての応用を期待し、フィルムで評価することにした。このように、まず、評価試料を作成するところから苦労したのである。
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