2024.07/29 難燃化技術開発のコツ
高分子の難燃化技術の開発を行っていると、時々冗談のような現象に遭遇する。その時、大笑いできれば精神衛生を健全に保てるが、科学で理解できると信じ、悩み続けると精神を病む場合もあるので注意を要する。
フェノール樹脂天井材の開発では、プロジェクトメンバーの一人が鬱で入院している。それにもかかわらず、メンバー補強の無いまま納期通りに完成することが求められた。
さらに残業時間の上限は、毎月20時間の制限付きである。当然この開発はサービス残業でこなすことになる。それだけではない。頭の固い上司の壁が、メンバーを苦しめた。
上司がマネジメントではなく、支配者として機能していた会社である。コーチングは1990年代から日本に導入されたが、マネジメント手法としての目標管理は、QC手法として日本で古くから実施されていた。
この目標管理のマネジメントを間違えると、最下層の担当者は地獄となる。管理者は、支配者となり、目標数値を達成できないのは部下の能力として評価を低くつけ、経営者に詫び許しを求めるようになる。
その結果、社内の有能な人物をアドバイザーとして招聘したり、コンサルタントを雇ったりする。すなわち、目標を達成できない原因がマネジメントにあるのではなく、周囲の能力にあると見せかけるのである。
すなわち、目標の基準の誤りや目標実現方法の誤解など管理者の責任を隠蔽化し、すべて部下の責任と見えるように、管理者がアクションを取り始めると現場は地獄になる。
ロバスト確保のために難燃剤を添加した配合を認めて欲しい、と上司に説明しても、難燃剤を使用しなくてもライバルは商品化している、と譲らない。
上司の意味するライバルは、フェノールとフォルマリンの反応から、すなわち原料開発から行っている企業であり、原材料の品質制御も可能な環境で技術開発を行っていた。その発泡体の価格は、高価であったが力学物性が天井材の目標を満たしていなかった。
防火性以外にフェノール樹脂の力学物性改良とコストダウンがゴム会社では解決すべき技術課題として設定されていた。難燃剤の添加はコストアップとなる場合が多いので、その観点で上司は反対している、と考えるようにしていた。
ここで、仮に無能な上司であっても、有能な上司と信じることがコツである。本当に有能ならば、ヒントに結び付くアドバイスなりできるはずであるが、そのようなことが無くても、「自分が上司ならばどのように部下を指導するのか訓練している」とでも捉えると良い。
上司の能力に対してその不満まで蓄積してくると、難しい難燃化技術の問題では精神を病む恐れが出てくる。部下の立場では、上司を選べないことをまず悟り、ストレスを少しでも和らげる努力をすべきである。
基本機能が防火性にあり、そのロバスト確保は技術開発として当たり前であるが、科学こそ命の研究所では、難燃剤無添加でも目標を達成できる場合があれば、そこを目指せとなる。ロバストという言葉は死語であった。
ただし、レゾール樹脂を外部から購入するサプライチェーンの条件で、フェノール樹脂の高次構造を自由に設計し、ロバスト確保と高防火性を目指す開発は困難だった。
当時市販されていたレゾール樹脂は、ポットライフが短いだけでなく、品質のばらつきが大きかった。その問題を解決できない以上目標達成は困難だった(原材料メーカーとは共同開発契約が結ばれ、原材料の品質はそのメーカーの力量という条件で開発が進められていた。不幸なことにこのメーカーの力量が低かった。)。
すなわち外部からレゾール樹脂を購入し開発を進めるというサプライチェーンでは、ロバスト確保のために購入したレゾール樹脂に難燃剤を添加する以外の技術手段が無かった。
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