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2025.01/05 製造業の未来(5)

1970年代のフォークブームでは、猫も杓子もギターを抱えていた。それも1960年代までのクラシックギターと異なるスチール弦のフォークギターである。


1970年代にアメリカマーチン社ドレッドノートのコピーが大量に発売され、その時の中古ギターでハカランダとスプルース、指板がエボニーのギターは当時の価格以上の値段でビンテージギター(注)として現在販売されている。


ハカランダは伐採禁止となった樹木であり希少価値と、当時でも高級ハンドメイドギターに使われていた材料なので20万円以上の価格がついていたりする。もちろんマーチン社のオリジナルであれば数百万円もする個体が存在する。


1970年代の日本に多数のギター工房が生まれている。モーリスにK.ヤイリ、ヤマハは当時から知られた量産メーカーで、アリアギターは商社であり、いくつかの工房と提携しギターを供給していた。その中の松岡良治手工ギターは高級品として4万円以上の価格がついていた。


当時大卒の初任給は数万円以下であり、ギターの普及品は1万円前後だった。ちなみに家庭教師の1か月のアルバイト代は週2日指導で1万円の時代である。当方は高3生を専門にして3万円という価格でアルバイトをしていた。菓子パン1個は20円の時代だった。


今アコースティックギターの普及品は3万円以下で購入でき、高級品は20万円以上の価格がついている。大卒の初任給は25万円前後、菓子パンは130円なので、高級品はほぼ物価に連動しての価格となっているが、普及品には割安感がある。


このギターの価格から、普及品はもはや日本で製造していては事業にならないことは明らかであり、実際に多くのギター工房が倒産している。


春日楽器に松岡工房、初代S/ヤイリ、木曽スズキ、マツモク楽器など当時大手の工房が消えた。マーチン社の下請けから始まり独自ブランドキャッツ・アイを販売していた東海楽器は、高い製造技術があっても経営難の状態である。


アイバニーズブランドの星野楽器は、設計と商品企画だけ行い、生産場所は日本とアジア地域である。その生産拠点は、韓国から中国、そして現在はインドネシアへと変わっている。


おそらくギターという楽器は、今後もポピュラー音楽に欠かせないので残っていくと思われるが、職人の人件費の安いところで普及品が作られるのだろう。


日本では、高級品のみの製造となるが、高級品を必要とする市場は大きくない。ゆえに、現在生き残っているギターメーカーでもブランドを棄損したならば一気に倒産する可能性があり、ブランド戦略が生き残りの最終手段となる。


このブランド戦略による経営も簡単ではないことは一度倒産したギブソン社の状況からうかがい知ることができる。例えばES-335というジャズやロックで使用されるセミアコースティックギターがある。


ギブソン社の発明によるこのギターは、多くの工房で類似品が作られ、アイバニーズも同様のデザインを改良したギターを販売し成功している。アイバニーズのセミアコースティックギターは、本家ギブソンのES335よりも高い品質で世界で売れている。


ギブソン社のES335は、現在ブランド戦略がとられ、新品でも40万円以上の価格で取引されている。その40万円以上の製品よりも実売10万円前後のアイバニーズのほうが高い品質である。


当方は、ギブソン社が倒産する直前の20年ほど前にお茶の水でES335新品訳アリを格安の20万円で入手したが、18万円で下取りに出し、7万円で定価16万円のアイバニーズ新品をネットで購入している。


そのギターは下取りに出したES335よりも生音も材料も良いのでびっくりした。アンプを通した音には歪が無く、またアコースティックな音色も抜群である。ただし、ES335のような荒削りの太さや独特の歪は無いので、好みによっては品質の悪いES335を良品とする人もいるかもしれないが。


ギターメーカーの変遷とその商品品質を50年近く見てきて思うのは、ギターという研究しつくされた製品でもブランドを始めとした付加価値で生き残ってゆくことができる。換言すれば、付加価値を見出せず、それを製品に作り込めないメーカーは淘汰される。


(注)当時表板は単板だが、側板と裏板は単板よりも合板の方が良い、とされていた時代であり、当時の価格が10万円以上の製品であっても合板が存在する。当時の合板は同じ材の積層板であり、最近の合板のように中身が廉価な板材の合板と異なる。また、1枚板を裁断しわざわざ合板にしているので単板と合板の見分けが難しい製品が多い。ビンテージギターを購入するときに注意しなければいけないのは、表板の変色である。また、当時高級品はローズウッドかハカランダであり、現在のようなマホガニーの高級品はほとんどなかった。塗装も高級ウレタン塗装が出始めた時で、恐らく黄変している。ゆえに材木の黄変と勘違いしないように。また手入れが悪いとエボニーの指板がひび割れているときがある。しかしこれをうまく修復している場合があるので注意する。型番と価格は相関しており、例えばD-60であれば6万円と分かり易い。また、名古屋の楽器量販店では3割引が当たり前の時代であり、6万円のギターは4万円で購入できた。Sヤイリは当時の人気商品だが、アジャスタブルロッドが入っていないのでネック調整に数万円かかる。東海楽器のキャッツアイはマーチン社と同等品質だったので、マーチン社の高価なビンテージギターを購入するのであれば、キャッツアイでも満足できる。裏板は緩やかなRがついているが、表板は平板なので注意してほしい。保管が良い場合には50年経ってもギター内部に木の香りが残っているはずで、サウンドホールで確認し、臭いビンテージギターは避けた方が良い。

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