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2025.01/06 暗黙知(3)

ゴム会社に入社し、10月1日に研究所へ配属された。その後の3か月間はゴム会社で最も幸せだった時間かもしれない。指導社員からレオロジーに関して多数の形式知と経験知、そして暗黙知まで伝授していただいた。


午前中は座学で形式知と経験知のご指導、午後は樹脂補強ゴムの混練実技を学んでいる。実技指導の最初の1カ月は、指導社員が常に作業に帯同されており、安全指導も含め丁寧に暗黙知を教えてくださった。


ロール作業では、危険作業をたびたび指摘された。ゴムの返し作業では、マッチ棒を用意し、返しの回数を数えるように指導された。また、ロール作業で混練がどのように進行しているのか確認する作業も教えてくださった。


このロール作業の過程で、カオス混合についてどのようなミキシングなのか教えてくださると同時に、二軸混練機でどのようにそれを実現したらよいのか、その方法を宿題として考えるように言われた。


残念ながら、3カ月の間にその答えを出すことはできなかったが、その後PPS中間転写ベルトの開発を担当するまで考え続けることになる。


しかし、30年近くそればかり考えていたわけではない。指導社員から教えられたレオロジーに関わる現象に接する時に思い出していただけである。様々な現象について具体的な数式とか流動様式を学んでいたわけではない。


パイ生地の練りや餅つきで現れる現象で、ロール混練ではこのように現象が起きている、と目の前でカーボン分散の現象を観察しながら、経験知の伝承を受けただけである。


研究所では、面倒な作業という理由でバンバリーとロール混練のプロセスを敬遠する人が多かった。ポリマーを混練するだけであれば、ニーダーでその目的を達成できる、と多くの人は信じていた(注)。


しかし、指導社員はゴムの混練を行うのであれば、ニーダーを使わず、バンバリーとロールを使用するように、と強く言っていた。実際の工程ではバンバリーとロール混練でゴム練りが行われているのがその理由であった。


材料を成形体にするプロセスにおいて、成形体の物性がプロセス依存であることは知られていた。とりわけ、高分子材料はコンパウンディングの影響が大きいと言われていた。


これは経験知であり、プロセスにおいてどの因子が成形体物性に影響しているのかは、技術者により見解が異なる。また、プロセスに関わる暗黙知も技術者により異なる。


指導社員は、プロセスで発生する音に注意するように言われていた。ただし、それがどのような意味なのかは、現象により異なり説明できないとも。そして、ロール混練でわずかな音の変化に注意することは、安全作業にもつながると。


新入社員の時に使っていたノートには、こんなような音と擬音が描かれ、そこにおかしな絵が描かれているが、これは文章にできなかった情報の表現である。


STAP細胞の騒動では小保方氏の実験ノートが話題になった。ハートマークとかネズミとか落書きしか書かれていなかったそうだ。暗黙知の表現ならば価値がありそうだが、そうではなかったことが悲しい。

(注)ニーダーによる混練で得られたコンパウンドと、バンバリーとロール混練で得られたコンパウンドでは、異なるのだが、科学を信奉している人は同一と捉える人が多い。両者のコンパウンドを用いて成形体を作成し、物性に差異が現れる場合もあれば現れない場合もある。指導社員は、物性値が等しい結果となってもプロセスが異なれば異なるコンパウンドであることを忘れないように、と言われた。それが30年後、PPS中間転写ベルトの開発で生きた。カオス混合装置の開発であるが、3か月で建設したラインであるにもかかわらず、高分子技術でトップメーカーのコンパウンドよりも高性能のコンパウンドができた。今年3月に招待講演者として選ばれたゴム協会のシンポジウムでも事例として発表する。オブジェクト指向の配合設計事例である。

カテゴリー : 一般

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