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2025.01/29 オブジェクト指向(4)

デジタルトランスフォーメーション(DX)が日本の技術者に変革を迫っているのは、科学の方法以外の思考による開発である。これが分かっていないリーダーが多い。


「花王のOAパソコン革命」という本が当方の人生を変えた、というと大げさだが、この本に書かれたいいかげんな内容(花王まで指導社員と一緒に出張し、著者に直接ヒアリングしている。著者はこのくらい書かないと経営者には分からない、と説明していたが、花王の経営者ならば理解で済むが、ゴム会社の経営者はすぐに実行となるので大変だ。タイヤ開発部門では大型コンピューターで動作する多変量解析が使われて業務が行われていたが、研究所ではそれを科学を知らない集団の仕事のやり方、と軽蔑していた。このような研究所でこの本はとんでもない読まれ方をしている。)が原因でコンピューターサイエンスの勉強を独学で行うきっかけとなった。何といっても初任給10万円の時代に80万円のローンである。


本には16万円でパソコンが買えてOA化できるというのに、なぜ100万円も予算が必要なんだ、ほんとに必要なものなら自分で買え、と言われ、九十九電機で80万円の見積書を作ってもらったら、100万円もかからなかっただろう、と言って保証人の欄に上司が印を押したのである(これは噂であるが一か月分の給与以下で買えるなら、研究員に買わせて使わせてみてはどうかと、I本部長が言われたらしい。80万円でカローラDXが買えた。DXとついているがデラックスの意味である)。


おそらくフジTVの役員もこのような感じではなかったか。部下が勝手に見積書を持ってきたぐらいに思っていたかもしれないが、保証人の印をもらいながらローンをしないのも悪いと思い、独身寮に工人舎のFDと第二精工舎のプリンター、インターフェースボックス、MZ80K、FDOS、その他が設置された。


本体よりもFDの方が高かった時代である。1980年代にこのマシーンは大活躍した。パソコンを使用した問題解決法では、データ駆動が基本となる。構造化されたデータを基にアルゴリズムでデータを操作する問題解決法である(NEXTコンピューターに搭載されたImprovというソフトウェアーはそれを実現した一つの例)。


科学の方法の思考ではなく、データ駆動で答えを出してゆく方法はDXにより技術者が実装しなければいけない。


1990年代になって、PC9801を購入し、C++が主要な道具になると構造化データとアルゴリズムを含むオブジェクトを設計するようになる。すなわちオブジェクト指向である。


当時のC++は、2段階のコンパイルで実行ファイルを生成していたので、使い慣れたLatticeCで、オブジェクト指向プログラミングと構造化プログラミングの差異を学ぶことができた。


オブジェクト指向では、データとアルゴリズムを一体としてオブジェクトとし、一部データ構造を隠蔽化できる。このプログラミング思考法になれてくると、問題解決にオブジェクト指向を取り入れることができる。


すなわち、科学の形式知として知られていない部分は、隠蔽化されたデータ構造と見なし、オブジェクトの機能にだけ着目し、その振る舞いを規定するデータ構造を探すことで問題解決できる。


タグチメソッド(TM)も同様の手法で制御因子を求めていることに気がついていない人は多い。DXの進展とともにTMが日本で普及したのは単なる偶然ではないと思う。


ただ、故田口玄一先生はTMを科学の方法に位置づけようと努力された。田口先生から3年間直接ご指導いただいたが、真面目な先生だった、と書くと失礼かもしれないが、当方が科学に拘らなくても答えを出せる良い方法、と褒めたら雷が落ちた。


今ならパワハラだが、田口先生は損失関数からSN比を導き出す研究をされていた。弊社では、制御因子等のパラメータと基本機能を入力するとPythonコードを出力するプログラムを開発した。これは、いわゆる第二次AIブームの時のエキスパートシステムだが、希望者にはβ版を提供いたします。


少し話がそれたが、TMは科学の方法としてでなくオブジェクト指向による方法と捉えると理解が容易になる。Pythonコード出力プログラムはオブジェクト指向でアルゴリズムが設計されている。


DXにより、技術者はオブジェクト指向を実装し、データ駆動で思考を進める問題解決法のスキルを身に着けることが求められている。これは招待講演者に選ばれた当方の3月に行われるゴム協会のシンポジウムにおける発表内容の一部である。

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