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2025.04/14 二軸混練機の性能(2)

カオス混合という、やや怪しい言葉の響きに思わず、「なんですか、それ」と失礼な言葉を発している。カオスを混練したらどうなるか、味噌糞一緒にするという言葉もすごいが、カオス混合という命名を考えた人はもっとすごいと思う。


ちなみに、今赤だし味噌は一度二軸混練機で混練されている。それにより、滑らかで簡単に溶けるようになった。昔は、味噌こしが必須だったが、今は手軽にお玉の上で分散できる。


餅つきではカオス混合が発生している、と指導社員は教えてくださった。最近はパイ生地の練りにカオス混合が発生している、という人がいるが、当時はドミノピザはじめ手軽に日本でピザなど食べられなかった。


高橋英樹の越後侍が年末になると餅のCMをやっているが、当時もあった。ゆえにカオス混合は餅つき、と脳裏に刻まれたのだが、指導社員から二軸混練機でカオス混合を実現するのが当方の宿題と言われた。


残念ながら、当時在籍した部署は3カ月で解散となり、この宿題を研究することができなかったが、それから約30年後にそれを実現するチャンスがおとずれた。


PPS/6ナイロン/カーボンの配合によるコンパウンドを一流メーカーから購入し、押出成形していた部門の部長から、リーダーを代わってくれと、頼まれたのだ。


会社の統合前に大学の先輩上司により左遷された立場なので、あきらめておとなしく早期退職の年齢になるまで窓際で過ごすつもりでいた。先輩上司から「君のペースで仕事をやっておればよい」と言われていたので、成果が出ていたこともあり、安心して仕事をしていた。


サラリーマン、気楽に仕事をやっていてはダメである。常に出世を意識し、出世のためならこっそりと他人の足を引っ張るくらいの根性でいなければ、せいぜい中間管理職程度までである、と考えたりもした。


ただ、ドラッカーは誠実真摯な人物を選ぶのがリーダーの役割、と言っていたことを思い出し、誠実真摯に働けばもう少し出世できるのでは、と期待してみた。


しかし、奇特な人が現れた、と一瞬思った。もっとも半年後には量産しなければいけない状況で、半導体無端ベルトの歩留まりが10%に満たない仕事である。


これを80%以上まで引き上げなければ責任を取らされることは予想された。当方に依頼してきた気持ちをよく理解できた。恐らくこのような人物が出世するのだろうと思ったら、その後当方より出世してセンター長までなっている。


50を過ぎていたので仕事を成功させても出世できないかもしれないと思ったが、ドラッカーを信じ役目を引き継いだ当方は一流メーカーの技術サービスの部長にカオス混合を勧めた。しかし「素人は黙っとれ」と言われ、あえなく半年後はまた窓際かとため息をついた。


この溜息で一流メーカーの部長からは、「勝手にコンパウンドラインでも作ってカオス混合をやっとれ、うまくできたらそれを使えばよい」と言ってくれたので、当方の上司のセンター長にそのまま伝えたところ、決裁権は8000万円までだ、とありがたい言葉を言われた。


そこで、中古の二軸混練機を購入し、カオス混合ラインのコンパウンド工場を子会社の敷地に3カ月で建てて、コンパウンドの生産を始めた。驚くべきことに、同一配合のコンパウンドなのに、それを使用すると押出成形歩留まりは100%となった。


半世紀前の指導社員の言葉をずっと考え、思考実験から頭の中に出来上がった装置を実用化しただけであるが、ものすごい装置を実用化できた(注)。


もっとも、この思考実験の最中に、東工大扇沢教授の実験室から、プレス機を用いたアクリルポリマーの混練の研究や、PPSと4,6ナイロンの混練をその場観察した研究論文の発表があり、思考実験のレベルは急速に上がって、「素人は黙っとれ」という言葉に巡り合っている。


カオス混合プラントを3カ月で立ち上げ、量産開始までに押出成形歩留まりを100%まで引き上げる成果を出しても出世できなかった。そこで55歳に早期退職を決意したところ、環境対応樹脂の開発を役員から命じられた。


好きなようにやってよい、と言われたので、名古屋市長に高分子廃材の相談をしていたこともあり、高分子廃材から再生プラスチックを環境対応樹脂として開発する企画とした。


直後名古屋市の秘書室から、名古屋でのPETボトル以外の細かい分別回収は見直すことになった、との手紙をもらい、PETボトル廃材を用いたPC/PETの開発を提案している。


すると、同じようにPET廃材企画を考えていた人物から、70%以上PET廃材が入っていなければだめだ、と横やりが入った。70%以上PETを含む樹脂を難燃化するよりもPC/PETのほうが易しいが、データ駆動の方法やカオス混合の事例を増やす良いチャンスだった。


そこで、退職日を2011年3月11日(金)に設定して、期待通りの再生プラスチックを開発した。この材料は退職後の2012年に社長賞を受賞している。


(注)カオス混合プラントの立ち上げには3か月かかったが、高純度SiCの実証には4日で成功している。研究開発というのはそれに投入した時間で成果の大小は決まらない。「素人は黙っとれ」発言から、3カ月でカオス混合プラントは成功している。高純度SiCの実証実験は、ゴム会社の人事部長から無機材質研究所所長にかかってきた、当方の昇進試験の結果通知から始まっている。何がきっかけで発明が成功するのか、神のみぞ知る、と思っている。そのために誠実真摯に日々努力する必要があるのだ。サラリーマンの昇進は、神の指示でもないので、それが期待通りでないことを嘆く必要はない。間違った判断をした上司を恨んでみても仕方がないのである。日産自動車の社長の事例や、ホンダの役員の辞職を見れば、出世が必ずしも人生の幸福に結びつくわけではない。誠実真摯に努力し、思い通りにならない時に、突然現れる幸不幸の分かりにくいチャンスに、やはり誠実真摯に挑戦する、これが成功した時の感動は計り知れないほどの喜びである。このような喜びはお金では買えない。誠実真摯な努力の賜物であることを知ると、ドラッカーの言葉の深い意味を理解することになる。

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