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2025.08/01 定着ローラの品質問題

8月1日になると思い出すのは、複合プリンターの定着ローラで発生した品質問題である。中間転写ベルトの歩留まり向上だけを考えて、2005年に豊川市にある生産技術センターへ単身赴任したら、この問題で揉めていた。


研究開発段階でゴムの耐久寿命については、某国立大学の著名な先生のご指導を受けたアーレニウス法で科学的に完璧に機械本体の寿命よりはるかに永い、との結果を得ていた。その結果を否定する1か月未満という寿命しかない定着ローラが量産試作で発見されたのである。


当方が赴任した時には、量産試作が始まって1か月の段階であったが、市場から回収された20本の不良ローラが山積みになっていた。


赴任したばかりで、MFPの構造すら理解していないのに、原因を尋ねられても普通の人なら困ったと思われる。ただオブジェクト指向を身に着けていたので、目の前のオブジェクトを簡単に説明してみた。


「これは、ゴムの動的破壊が短時間に進行した結果であり、全体の設計に問題があるのか、ゴム材料に問題があるのか、分けて考えなければならないが、発生率が10%未満なので、ゴム材料起因と思われる。」


と、あたり障りのない回答をしたところ、すぐに福建へ飛んでください、となった。中国の福建にあるベンダーの工場で生産されたものらしく、工程の異常を見てきてください、ということになった。


1時間後総務の女性からパスポートを持ってきてください、と連絡がきた。中国出張など考えていなかったのでパスポートなど持っていなかった。日米写真学会の招待講演でカナダに行ったときにパスポートを作っていたが4年前であり、少し心配になった。


品質保証部長から明日東京出張してパスポート持ってきてください、と連絡が入り、単身赴任したばかりなのに、東京へ戻ることになった。なんやかやと訳の分からないまま、周りに振り回されて、気がついたら、福建の日式カラオケで歌っていた。


初日にベンダーの接待でカラオケとは、と疑問に感じたが、とにかく一息つけた時間だった。飛行機の中では、開発担当の一人から、科学的に耐久寿命を行った経緯をべらべら説明されたので、考える時間も無かった。


1曲歌って、定着ローラの製造工程について何も知らないことに気がついた。そもそも開発担当は、大学の先生から学んだ知識を当方に説明してくれたのだが、製造工程については何も教えてくれなかった。


オブジェクト指向の観点からは、成形オブジェクトと加硫工程オブジェクトが、その振る舞いから定着ローラの仕上がりに影響を与えることぐらいが想像できる程度だった。


福建に到着して翌日工程監査のやり直しを行ったが、ベンダーの説明を聞く前に、1時間ほど成形と加硫工程を見せてもらった。そして、二つのオブジェクトのふるまいに影響を与える3つの因子を現場で見つけた。


この3つの因子のうち一つは、慣れてしまえば、疑問に思わないが、初めて見た場合には不思議な因子である。現場で質問したところ当たり前の説明がなされたが、その後これが最も大きな因子であることが分かった。


オブジェクト指向の良いところは、各オブジェクトについて全体との整合性を捉えることができる点である。科学的に一つ一つの因子に問題が無くても、それらが絡み合った結果、異常を起こすことがある。


工程問題には非科学的であるが、オブジェクト指向で頭の中で各オブジェクトのふるまいを検証する思考実験が有効である。E・S・ファーガソンの言葉では心眼である。

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