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2016.01/19 21世紀の開発プロセス(7)

LED電球の低価格化と普及がめざましい。登場したときには数千円したLED電球が、いまや数百円である。この価格低下の裏側ではLED電球の構造も大きく変わった。まずソケットなどの外装が金属から難燃性の熱伝導樹脂に変わっている。この変化だけで、生産性は大きく変わりCDに寄与する。
 
さて、難燃性の熱伝導樹脂だが、これは先端材料の部材で、日本の樹脂メーカーが高い技術力を持っている分野だ。そして高い値段で取引されてきた。なぜ、この材料が高価格を維持できるのか。理由は簡単で、高い難燃性と、高い熱伝導率、そして電気的に高い絶縁性能と割れにくい力学物性を満たす材料は、形式知だけで作り出せないからだ。
 
特許を見なくても、熱伝導樹脂をリバースエンジニアリングすれば、難燃性能と熱伝導性を向上できる技術をすぐに知ることは可能である。すなわち、難燃剤と熱伝導性の高い粒子を樹脂に混ぜれば良いだけである。難燃剤と熱伝導性の粒子に絶縁体を用いれば、樹脂も絶縁体なので、高い絶縁性能を実現できる。しかし、最後の割れにくいという力学物性は、形式知でどうにもならないのだ。
 
線形破壊力学という形式知を活用すれば、熱伝導粒子の粒径やその分散状態を知ることができるが、混練というプロセシングが実践知の塊で、せっかくの形式知に基づく成果を科学の力だけでは実現できない。どうしても非科学的な問題解決プロセスを採用しなければならない。
 
それを割り切って採用するか、従来通りの科学こそ命、と科学の殉教者の如く取り組みを行うかで、できあがる樹脂の品質は大きく変化する。
 
実際に、某企業から指導を依頼されて研究開発必勝法のセットでこのテーマに取り組んだところ、オリジナル処方で既存の市場の製品よりも優れた力学物性の樹脂を生産できるようになった。他社品同等の品質というおおよその期待はしていたが、他社製品よりも品質が優れた材料ができるところまでは予想していなかった。実践知のすごいところである。
 
その企業は、市場に参入したときに某日本メーカーの物まねで材料を供給していたが、力学物性が悪い、ということで売り上げが伸び悩んでいたのだ。この状態を野放しにしておいては、この企業の安価な樹脂を使ったLEDが日本に流れてきては大変と思い、指導を引き受けたのだが、今度は日本メーカーの売り上げを脅かす問題の心配をしなくてはいけなくなった。
 
 

カテゴリー : 一般

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