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2016.05/06 26日の三菱自動車記者会見(8)

ゴム会社の故S専務は、多変量解析で求められたパラメータを用いて軽量化に成功したタイヤを前に得意げにプレゼンテーションを行った当方におもむろに質問された。「君にとって軽量化タイヤとは何か」
 
当方は、自信を持って「このタイヤです」と答えたら、「ばかもん!」という講堂に響かんばかりの叱責が返ってきた。そして、「それはゴムの塊だ!」と、おっしゃりその後延々と話が続き、グループの代表で発表台にいた当方ははりつけ状態になった。
 
すなわち、実験室でいくら物性値を測定し、それが規格内に入った製品ができたとしても、そこにあるのはタイヤではない、タイヤとは実際に車に装着し、各種安全試験を行ってそれに合格した製品だけがタイヤという商品として販売できるのだ、というようなことをおっしゃっていた。
 
その日の夜の打ち上げでは新入社員の間で意見が分かれた。しかし、多くのメンバーはこの専務の説教でモノ造りの神髄を感じたようだ。当方もその一人で、ゴム会社の「最高の品質で社会に貢献」という社是が、メーカーの社是として世界一の社是と理解できた瞬間でもあった。
 
おそらく現代の科学の水準であれば、自動車の各機能を科学的に記述することは可能だろう。しかし、それで本当に安全な自動車ができた、という証明にはならない。自然界に科学で未解明の現象がある限り、必ず自然界で機能の安全確認を愚直に行わなければならない。
 
科学ですべての自然現象を解明できていないので、自然界で想定されるすべての条件で機能をテストすることになるのだが、これは不可能である。そこで科学的に、自然界のノイズの中でテストを行う標準規格をとりあえず作り、その標準規格を満たしているかどうか確認する。
 
実はこれでも不十分だが、妥協して標準規格を作り確認実験を行っているのだ。だから、標準規格については、愚直にその規格通り行わなければ、気がつかないミスを犯すことになる。
 
今回の三菱自動車の記者会見を聞いてわかったことは、このモノ造りの基本を経営者始め従業員全員がご存じ無く、科学で自動車開発を行ってきたことが原因で、それが結局不正という評価になっている。だから、記者会見に臨んだ役員はおろか業務を担当した人までも大きな不正を行ったという意識は無いのだろう。記者会見を聞いて、もし不正ではないなら、モノ造りの手順において大きな間違いを犯した、と思った。

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