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2016.05/25 マネジメント(7)

始末書と新たな企画書を提出することになったが、その後、始末書がどのように扱われたのか不明である。ただ、その後同期の給与明細書と比較して毎月200円給与が少ない点が気になっていた。
 
しかし、新たな企画であるホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体は大成功となり、新商品を出すことができた。ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームは、300円/kg程度のホウ酸エステルをリン酸エステルと組み合わせると、難燃剤の使用量を半減できる。そのためコストダウンに寄与し、始末書の宣言通りの技術となった。
 
また、難燃化機構を解析したところ当初の目論見通り、燃焼時の熱でボロンホスフェートが生成し、空気を遮断していることが確認できた。これも始末書に書いたリベンジ目標の一つである。
 
ホスファゼン変性ポリウレタンフォームは実用化されなかった、という理由ですぐに学会発表できたが、ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームは、特許が登録されるまで外部発表ができなかった。
 
ただし、課長が高分子学会の研究会で委員をやっていたので、このような学会発表には理解があった。その後発表したときに、ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームについては少し世間の関心を集めたが、ホウ酸の環境負荷を考慮し、この技術はやがてお蔵入りとなった。
 
課内における課長の評判は芳しくなかった。しかし、当方はその後この課長の推薦を受けて留学の機会を得たりしている。また、ポリウレタン発泡体の次に担当したフェノール樹脂天井材では、直接商品開発を担当でき基礎研究から商品化までの実務体験を学ぶことができた。悪い評価査定をつけられてはいたが、この課長のマネジメント能力に少し感謝していた。
 
ところで、化工品部隊への貢献がミッションだった時代から新事業を生み出すのがミッションへと研究所の役割が変化していた時代に、この課長がうまく対応できていなかったことは、部下の立場から理解できた。ホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体の後に提出した、高純度SiCの企画を含め、当方が提案した新事業関係の新たな企画は、ことごとく却下された。
 
ただし、海外留学へ推薦してくださったのは、この上司であり、その海外留学を直前に当方の企画実現のために希望した無機材質研究所へ変更してくださったのもこの上司である。
 
始末書に始まり昇進試験失敗までこの上司による業務評価査定は悪かったが、難燃性ポリウレタンフォームやフェノール樹脂天井材という成果を出すことができ、組織への貢献を十分にできた2年半であった。
 
また成果主義の会社という説明を受けていたが、定められた年間目標どおり成果を出しても評価されない、というサラリーマンの評価の厳しさを学んだ時代でもある。さらに、今でも事業として続いている高純度SiCの企画を最初に認めてもらえずアンダーグラウンドで研究を進めなければいけないような苦労をしているが、無機材質研究所への留学を実現してくださるなど「矛盾の行動」(注)には感謝している。
 
課員には評判の悪かった課長ではあるが、部下の将来のために一生懸命だった課長の姿は当方に見えていた。転職までの当時の給与明細を眺めると始末書の影響は、200円x24=4800円、その他昇進が1年遅れた給与不足分であり、生涯給与の観点でほとんど誤差である。
 
高純度SiCの先行投資を受けた後給与は著しく上がったのでこの課長のマネジメントには、感謝しなければいけないのだろう。小保方氏も「あの日」を読むとひどい処遇を受けてはいるが、STAP細胞の研究を行える環境を組織から与えられ破格の高給で処遇されている。もう少し組織に感謝したら良いではないか。論文を取り下げる事態になったのは自己責任の視点で考えるべきだろう。さらにSTAP細胞を実現出来ていたなら現在の言動も多くの人に容認されるかもしれないが。
 
(注)無機材質研究所入所時、SiCの結晶が研究テーマであることは事前に分かっていた。しかし、ペロブスカイトの基盤研究がゴム会社の研究所で認められたテーマだった。これをどのように調整したのか課長から教えていただけなかった。ただ留学して半年後に昇進試験があり、落ちている(翌年同じ答案で合格している)ので研究所の方針と異なる点について問題が残っていたことは理解できた。しかし海外留学に決まって半年後に国内留学へ切り替えるだけでも上司として大変なエネルギーが使われたはずである。

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