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2016.05/26 専門知識

ゴム会社から写真会社へ転職し、高純度SiCの技術すなわちセラミックスの専門家から高分子の専門家へ鞍替えすることになる。写真会社の面接では、高分子部門へ配属になるが、よろしいですか、と確認された。それに対して当方は、高分子のことは何も知らないが大丈夫ですか、と逆に質問した。
 
研究開発管理業務だから専門領域は問わない、と言われた。このときふと新入社員時代はゴムやポリウレタンを担当し、ゴム技術では3ケ月間優秀なレオロジストからご指導を受けたことを思い出した。ポリウレタンでは学会発表やイギリスの学会誌への投稿もしていた。しかし、9年ほどセラミックス業務を過酷な状況で担当していたストレスで、ゴム会社で高分子技術を学んだことを忘れていた。
 
ブラック企業がニュースになったりするが、ニュースに現れる内容は当時を思い出すと灰色と感じる。ゴム会社本体の従業員数が17557人(1979年)から12597人(1998年)と20年間に5000人程度減少している状況から想像していただきたい。とんでもない事件も起きている。
 
当時を振り返ってみて、入社からセラミックス事業をスタートするまでの記憶が無くなっていたのは幸せだったのだろうと思った。それだけ集中できる環境が用意されていたのである。高純度SiCの研究所は工場の敷地のはずれに建設されており、隣接する病院の塀際だった。この病院は「楡家の人々」の舞台になった病院と聞かされていた。転職するまでの数年間はこの広い研究所の建屋で一人で仕事をしており、むしろ記憶が無くなる程度で済んだことに感謝した。
 
そこで、転職して数か月の暇な時間を利用し、当時の担当した仕事を特許や学会発表資料を基にまとめてみた。また、出張して大学の先生に高分子のイロハを指導してもらう努力もした。0から立ち上げた高純度SiCの事業に未練はあったので、それを忘れるためにも夢中で学ぶ努力をした。
 
さらに学位をT大で申請するため、学位試験対策でもあった。学位審査がT大ではなく中部大学になった経緯は複雑なので省略するが、論文審査の場合筆記試験もあると言われており、親切にも過去問題をT大からいただいていた。学位の半分は高純度SiCの話だったが、審査の先生が高分子物理分野のご専門だったので、過去問題は高分子基礎科学の内容が多かった。
 
ありがたいことに東京にあるT’大の先生からもご指導を受けることができるようになった。その先生から高分子自由討論会なる勉強するには大変便利なクローズド研究会を紹介された。転職し1年ほどで高分子を勉強できる環境が整い、写真会社で貢献するための準備が整った。
 
この時獲得した高分子の知識については「高分子のツボ」として退職後まとめ直したが、学生時代の高分子の教科書とは異なる内容になった。これは、高分子科学の進歩の結果だろう。
 
ただまとめてみて感じたのが高分子の専門知識というものは、セラミックスや金属と異なり、今も勉強していないと高分子技術者としてやっていけない、と感じたことである。すなわち高分子物理の分野は現在進行形で進歩している。
 
面白いのは、実務である高分子技術ではすでに暗黙知あるいは実践知として活用された実績のある知識がリベールされて形式知としてまとまってゆく学問の進歩である。
  

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