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2016.05/31 科学の知識(2)

ゴム会社で30年以上前に立ち上げた高純度SiCの事業の基盤技術である前駆体合成技術は科学的方法で発明されていない。科学の時代に科学的ではない方法で発明している。
 
科学の知識によれば、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂は均一に混ざらない。ゆえに当時特許として公開されていたのは、ポリエチルシリケートとカーボン粉末の組み合わせか、シリカゾルとフェノール樹脂の組み合わせを前駆体に用いる技術であり、最先端だった。
 
フローリー・ハギンズ理論によれば、当方の発明は「成功しない技術」として否定される。ゴム会社で企画提案したときに指摘されたのは、「君に高分子の相溶の知識はありますか」という一言だった。知識があるからリアクティブブレンドを選んだ、と回答したら、「いつできますか」となった。
 
最初のトライは大失敗だった。その結果を見た人から言われたのは、「勉強した方がいいですね」だった。
 
科学の知識は大切だが、科学の知識だけで技術ができていない現実を新入社員の研修で指導されて、当時科学と技術について思索を続けていた。だから大失敗でもできるような気がしていた。STAP細胞ありまーす、という叫びは極めて技術的発声でその気持ちを当方はよく理解できる。
 
ただ彼女の場合の問題は、科学の世界で仕事を続けようとした選択である。当方はS専務の説教により技術の世界で生きる決心をした。しかしいざ決心してみても科学の世界のような教科書は、技術者向けに販売されていない。幸運なことに技術者の鏡と呼びたくなるような指導社員に出会った。
 
その方の専門分野は物理学だった。粘弾性論を得意として、バネとダッシュポットのモデルから導かれた方程式を電卓で解くような人だった。しかし、その特技も10年後には不要になる、とつぶやいていた。
 
今でも記憶にある最も印象的なことは、高分子はそのプロセスの履歴を拾った物性になる、という一言である。さらに、科学で作れないと結論された材料でもできてしまう面白さを指導してくださった。すなわち科学は真実をまとめた大系でしかない、とも語っていた。

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