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2016.06/03 科学の知識(5)

指導社員は、良い結果がでたら、何度もその同じことを繰り返してやりなさい、とも言われた。良い結果は繰り返し再現されることを確認しなければいけない。そして繰り返しの中に良い結果と異なる「悪い」現象が見つかったらそれは失敗ではない、良い結果とその悪い結果を報告するように、と指導された。
 
担当した樹脂補強ゴムの開発では、良い結果が出ることは希であった。指導社員から渡された処方をそのまま実行しても、指導社員の作成したゴムと同様の物性にならなかった。どこが間違っているのか尋ねても、同じ物性が得られるまで練習して良い、と言われた。
 
毎日ロール混練との格闘で不安になってきた。実験室にいた諸先輩は近くに来ては激励ともいえない冷ややかな言葉をかけてくださったが、親切な人もいた。その人はマッチを3箱持ってきて、ロールで行っている幾つかの繰り返しの伴う作業をカウントするように言われた。
 
何気なくやっていたロール作業であるが、マッチ棒でカウントすることにより、各作業を注意深く行うようになった。そしてナイフを使った返し作業が、同じ時間内でありながら最高で3回誤差が生じることも分かった。
 
驚くべきことに、マッチを使い始めてから、力学物性のばらつきが小さくなった。そして各作業を注意深く見直し、ロール作業における微妙なタイミングが力学物性に影響していることも分かってきた。理由は不明だが、それらの変化を参考にしながら作業を改善していったところ、一人で始めて6日めにようやく指導社員から渡されたサンプルと同じ物性が得られるようになった。
 
実験室にいたある先輩Oさんは、一種のいじめだと言っていた。当方の指導社員は周囲にあまり評判が良くなかったようだ。定時になるとすぐに仕事をやめて、囲碁や将棋を打っていた。他部署の人が業務中に質問に来ても難解な英語の論文を渡すだけである。その様子を見ていて当方は幸せだと思った。自分にだけ親切にいろいろ教えてくださっているのである。
 
Oさんは、指導社員がサンプルを作ったときにプロセシングのデータを取っていなかったことを教えてくださった。また偶然できたらしいことも。ただ、小生は毎朝の座学でそれが偶然の産物でないことを知っていた。また、指導社員は、外面は理論派でその実力も周囲が認めるところであったが、実態は現場を重視する職人肌の人だった。
 
研究所の大半の人が嫌がる小型のバンバリー作業も難なくこなしていた。Oさんもそのバンバリーは面倒で普段の実験に使えない、と言っていた。しかし、その面倒な作業を指導社員は慣れた手つきで当方に指導くださったのである。
 

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