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2016.06/23 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(5)

 計算機化学の有効性が言われてから40年近くになるが、実際の現場でシミュレーションを用いた処方設計の事例は多くない。
 
 40年近く前、粘弾性論に基づく数値解析により防振ゴムを設計した経験がある。また、パーコレーションをシミュレートできるプログラムを開発して、フィルムの帯電防止層やカラー複写機用中間転写ベルトを開発した経験もあるが、プログラム開発時間を含めなければ、大変効率の良い方法である。
 
 パーコレーションについては、1960年代に数学の世界でその理論がほぼ完成し、1990年代に材料開発へ応用されるようになった。真球の導電体を絶縁体に分散したときに、クラスターを生成しやすい条件と、クラスターが生成しにくい条件とを比較したシミュレーションを行うと、体積分率で0.3から0.6の領域で導電性がばらつき、それが確率に支配されていることを理解できる。
 
 詳細は省略するが、酸化スズゾルをポリマーバインダーに分散したときに生じるパーコレーションの様子をこのプログラムで計算し、20vol%未満でもパーコレーション転移が生じることがわかり、酸化スズの添加量が18vol%という低い値で帯電防止層を設計し実用化している。
 
電顕写真で帯電防止層の断面写真を観察すると、ポリマーアロイバインダーにネットワークを形成して酸化スズゾルが分散している様子を観察することができる。
 
 この技術は50年以上前に発明され、その後シミュレーションを行わず検討していたときには、帯電防止層に使えない材料という結論が出されていた技術だった。
 
再度開発を行う時に、シミュレーションで現象を見直し、新たにバインダーやプロセシングを改良して開発に成功した。
 
 ところで、高分子のシミュレーターとしてOCTAが有名であるが、こちらは2040年頃になれば処方設計にも使えるようになると一部で言われている。しかし、高分子物理がまだ発展途上なので、現在のところOCTAも開発途上という位置づけになる。ただし、無料ソフトウェアーが配布され、それを利用できる環境は整っている。
 
 OCTAの普及とともにバネとダッシュポットのモデルを使用する旧来の粘弾性論は、高分子分野では形式知の遺物になると思われる。

カテゴリー : 高分子

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