2016.08/19 フィラーの分散
流動性のある物質の中に微粒子が分散している状態をコロイドといい、それが流動性を持っているときにゾル、流動性が無くなるとゲルと呼ぶ。これは化学の世界だけに限らず、日常会話にも登場する。
例えば殺虫剤を散布すれば、エアロゾル(エアゾル)という言葉が出てくるし、今は死語となったガンクロが夏の時期には町に現れ、何やらつまみながら「げるってる」などという言葉を発する光景に稀に出会う。
コロイドとかゾル、ゲルなどという科学用語は、いまやフツーの日本語になりつつある。だから微粒子の分散技術も簡単に理解できる時代ではあるが、現場の技術者は難しく考えている。これは、教科書にも責任がある。
例えば、ゼータ電位の問題。液体の中に微粒子を分散した時にその表面に何らかの電荷が現れ、と説明が始まる。微粒子表面に電荷が現れる現象は、もう日常生活で経験済みである。
昔電気粘性流体の開発を担当していた時にゼータ電位の問題はよく議論していた。現象の理解や説明には便利なパラメーターである。しかし、粒子が凝集したり(クラスターを形成したり)、何か不純物が入ってきたりして複雑になってくると途端にこの問題は難しくなる。計測データを見てもマクロ的な現象から説明をし始めたりする始末である。
何のためにモデル系を作ってゼータ電位を測定したりしていたのでしょう、と自分で自分の行動を笑ってしまう。コロイド科学を真面目に研究するのは難しい。しかしフィラーの分散を直感的にとらえ理解するのはそれほど難しくない。
夏の日のクーラーの効いていない電車の車内を想定して欲しい。乗客が少ない間は、皆距離をおいて乗っている。次第に混雑してきても前からいた乗客は自分の位置を変えて、距離を置こうとする姿を観察できる。混雑していない時に座っている乗客の前に立てば上目づかいで睨まれたりする。感じが悪いのでやはり少し距離を置く。
すなわち混具合で電車の中の人の配置がかわるようにコロイドでも濃度によりクラスターのでき方が変わる。このようなことは直感的にわかる。みるからに恋人どおしのカップルは空いている電車の中でも離れようとしない。これは、高分子の中にフィラーを添加した時と似ている。凝集性の強いフィラーは添加量が少なくても分散は難しい。
だからカップリング剤でフィラーを前処理する必要が出てくるのだが、恋人どおしを引き離すのが難しいのと同様に、凝集粒子をカップリング剤で処理してもその凝集を完全にとくのは、カップリング剤以外に一工夫が必要である。フィラーの分散の問題は科学で真面目に考える前に直感でまず現象を整理していった方が面白いアイデアが浮かぶ。