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2016.09/08 研究の重要性

材料技術に関し、現代は基礎研究など不要で技術開発だけも良さそうな状況である。当方は研究が必要な領域の開発でも研究を無視してアジャイル開発をしている。しかし、それだから研究は不要と思ってはいない。例えば高分子科学やセラミックスさらには生命科学との学際部分には星の数ほど研究テーマがころがっている。
 
手前味噌で恐縮だが、高純度のSiC微粉開発を行っていた時に、偶然の結果ではあったが、最適製造条件が見つかり、いきなり量産設備をつくりあげることも可能となり、横型異形プッシャー炉という電気炉の特許も出願していた。この技術の重要なポイントは、SiC化の反応と冷却ゾーンとを間仕切りし、前駆体の反応終了後、別ゾーンで冷却を行うことを可能にする炉の構造である。
 
前駆体の製造条件も見つかり、SiC化を行う電気炉の設計もできて、技術開発としてほぼ完成に近い段階だった。すなわち、すでに研究は不要と思われた。しかし、それでも2000万円投資して超高温熱天秤を開発し、SiCの合成反応について、速度論的研究を行っている。これは、中部大学渡邉誠先生のご指導で学位論文としてまとめた研究の中心部分である。
 
なぜ、2000万円もかけて研究を行う必要があったのか。それは、当時SiC化の反応機構がよくわかっていなかったからだ。大学の先生の中には、幾つかの研究論文を並べて、反応機構を説明される人もいた。すなわち研究者として終わっている先生だ。
 
確かに従来の気相経由の反応機構でSiCの生成を十分に説明できそうな状況だったが、シリカ還元法においてウィスカーと粒子が共存したり、粒子だけ合成できたりする点について、研究データが不足していた。明確に言えば、SiC化の反応機構は当時わかっていた気相成長以外にも少なくとももう一つ反応機構があるように思われた。
 
有機合成について卒論で研究していた当方の目には、セラミックス研究者の反応機構に関する研究がザル研究に見えた。この点以外に、もし気相成長論が正しければ、当方の発明した前駆体はあまりありがたみの無い発明になる。前駆体法が他のSiC製造プロセスと大きく異なる、あるいはSiC合成のために大きな長所を持っていることを示す必要からもSiC化の反応機構解析は重要な研究だった。
 
超高温熱天秤を用いた速度論的解析により、フェノール樹脂とポリエチルシリケートとのリアクティブブレンドで合成された前駆体を用いた時のSiC化の反応機構は、気相を経由しない均一固相反応機構であることがわかった。この科学的研究成果から当時公開されていた多数の特許が同じ技術であることも証明でき、前駆体法だけが100%完璧に固相反応を実現できる方法であることも証明できた。そしてこれは前駆体法の簡便な品質管理技術の発明でもあった。
 
科学に基づく研究は新たな真理を生み出すために重要で、新たな真理が無くても技術開発は可能であるが、新たな真理が無ければその技術の本質を明らかにすることができない。技術の本質がわからなくても市場で安定に機能する製品をタグチメソッドで開発可能であるが、技術の本質がわかることで、本当に大切にしなければいけない技術、伝承すべき技術が明確になってくる。このために企業で研究が必要な時もある。
 
アカデミアで企業に先んじて研究を進める重要性は、この意味から明確であり、企業の現場から良い研究が生まれる状況をアカデミアは作ってはいけない。それがアカデミアの使命である。アカデミアで新しい真理が企業の技術開発に先行して生まれている状況が、アカデミアのあるべき姿である。SiCの反応速度論に関する投稿論文は、研究を着想からデータ収集まですべて行いながら当方がファーストオーサーになっていない問題がある。おまけに渡邉先生の名はそこには無い。企業研究者は注意すべき点である。
 
 

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