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2012.12/30 考える技術はいつ頃大衆化したか

 本能的に問題を解いていた時代から、解く力を磨き考える技術を生み出し、多くの人がそれを活用するようになったのはいつ頃からでしょう。科学者や技術者の考える技術については、誰が最初なのかその歴史をたどることは、物理学者マッハが指摘するように困難と言われています。しかし、推論などの考える技術を駆使した著作物をその歴史の足跡と捉えるならば、例えば哲学書をたどることによりその一端を調べることもできます。

 

ただし、難解な哲学書を一般大衆が読んだとは思えませんので、それが分かっても専門家の考える技術の歴史になります。一方で哲学に分類されますが、多くの信者を擁する宗教の教えを考える技術に入れるというのは少し違和感があります。たとえ心の問題を解決できても宗教による問題解決法に汎用性はありません。例えば科学の問題を宗教では解けないからです。

 

それでは、人類が科学の問題も解決可能な解く力に関心を持ち、能動的に考える技術を日常生活の中で使おうとした時代を知るにはどうすればよいか。科学的な論理が世間で注目され、その価値を商品に盛り込み大量に売られたのは、恐らく探偵小説が最初と思われます。江戸川乱歩は、探偵小説の定義として「探偵小説とは、主として犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれて行く経路の面白さを主眼とする文学」と「探偵小説の定義と類別」の中で述べています。この定義に従う著作物であれば、本書で取り上げる考える技術の参考資料にできます。

 

そこで、探偵小説の二つのジャンル、すなわち読者に対し謎の提示から始まり探偵の捜査と推理によってその謎が解き明かされる「一般的な探偵小説」と、書き出しで読者に犯罪を見せるという探偵小説の逆の語りで展開される「倒叙探偵小説」について調べてみました。

 

探偵小説の歴史を調べてみて興味深いのは、17世紀に哲学者ルネ・デカルトの「方法序説」が発表され、1878年にフリードリヒ・ニーチェにより「人間的な、あまりに人間的な」が出版されるまでの哲学と文学が相互に刺激しながら展開されてきた時代に生まれ、発展していることです。

 

すなわち19世紀初めに有名な「モルグ街の殺人」が探偵小説の元祖エドガー・アラン・ポーにより発表され、多くの人に読まれました。続いて書かれた「マリー・ロジェの秘密」や「盗まれた手紙」を含めた3部がデュパン探偵の活躍する典型的な探偵小説として知られています。少年少女名作集などで取り上げられる「黄金虫」は、探偵小説ではなく謎解き物語というジャンルだそうですが、これも探偵小説同様に考える技術を楽しめる物語です。おそらく哲学者の道具であった難解な論理が一般の生活に浸透するのに100年以上かかったのでしょう。

カテゴリー : 一般

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