2016.09/19 企画を成功させる(4)
2000℃以上まで結晶を固定できる技術を評価されて、計測実験もまかされるようになった。そして、2200℃までの結晶格子のデータが得られ、無事6H型SiC単結晶には異方性のあることを実証でき、論文が完成したときに、末席に当方の名前が載っていた。うれしかった。
しかし、幸福は永く続かない。投稿前の論文を見せられたときに、ゴム会社から電話がかかってきて昇進試験に落ちたことを知らされた。
ゴム会社では世間でいうところの係長職に相当する役職へ昇進するときに論文試験があった。当方が受験したときの問題は「あなたが考えている新事業について会社へ提案してください」という内容だった。当方にとって易しい問題で、高純度SiCの事業シナリオを書いた。しかし、その答案に0点がつけられたそうだ。そして0点は試験制度始まって以来の最低点と言うことも電話で告げられた。
会社からの連絡はI先生の机に置かれた電話にかかってきたので一部始終I先生に聞かれることになり、これが一瞬の地獄から幸運へ向かうきっかけとなった。I先生は1週間だけ無機材質研究所の設備を自由に使えるように研究所内の調整をしてくださること、そしてこの1週間の間に当方の夢を完成するとの条件付きで高純度SiC合成法研究のチャンスをくださった。
このチャンスを見事活かすことができて、真っ黄色の粉体を一週間で開発できた。この実験結果は無機材質研究所の中で噂になった。そのままであればSTAP細胞と同様の騒動になっていたかもしれない。しかしI先生はうまくマネジメントされ、騒動にならないように研究所に箝口令を敷いてくださった。
この時の体験があったのでSTAP細胞の騒動については組織マネジメントの問題が大きいのでは、と思っている。研究開発部門というのは活性が高ければ高いほど騒動が起きやすい。大きな成果が出たとしても冷静に対応できる、あるいは推進できるマネジメントが必要である。
I先生はうまくマネジメントしてくださり、ゴム会社で高純度SiCの開発ができるように下地を整えてくださった。下地はできたが、ゴム会社はすぐに対応しなかった。このあたりのごたごたは省略するが、やがて故服部社長の前でプレゼンテーションを行いファインセラミックス専用の研究棟建設と2億4千万円の先行投資が決まり、企画実現のチャンスが訪れた。
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