2016.09/20 企画を成功させる(5)
ゴム会社で高純度SiCの研究開発が可能になったのは、無機材質研究所のI先生の功績が大きい。I先生がうまくマネジメントしてくださらなかったら、STAP細胞同様の混乱となりゴム会社とは異なる企業で事業化されていたのかもしれない。基本特許は無機材質研究所で出願され、この時の状況はどこでも研究開発が可能だったからだ。
無機材研で芽を出すことができた高純度SiCの技術は国の研究所の成果として計上され、そのように粛々と運営された。すなわち、文科省からの斡旋を受ける形でゴム会社は事業をスタートしている。そして毎年レポートが提出され、基本特許に対する報奨金もゴム会社から国に支払われている。
当方に対するヘッドハンティングの話など脇道はいろいろあったが、ゴム会社で事業として立ち上げる決断をし、数年の死の谷を歩き、住友金属工業とのJVとして半導体治工具の事業が立ち上がっていった。
ただしマーケットが無いのに高純度SiCの技術開発がゴム会社で続けられたのは、当時の研究開発本部長U氏の特徴あるマネジメントのおかげである。「まずモノをもってこい」という厳しいマネジメントに対して、忠実に研究成果としてのモノを出し、厳しい要求に応えてきた。
例えば、SiCセラミックスヒーターは、常圧焼結で製造されたバージョンとホットプレスで製造されたバージョンをすぐにモノにすることができた。これは無機材質研究所がSiCについて焼結理論も含め最先端の研究成果を有しており、その成果を応用すればよいだけだったからだ。
そのほか、燃料電池用電極、単結晶シリコン引き上げ用るつぼなど他社からの要望にも試作品として即座に対応した。もし当時マーケットが大きかったならば戦力補強もしていただけたが、無機材質研究所の紹介で住友金属工業からJVの申し出があるまでまとまったマーケットに出会えなかった。
例えばこのとき応用技術としてSiC基セラミックス切削チップを開発しているが、マーケット規模が一億円程度と小さくボツになっている。
U氏からは、高純度SiCのテーマ以外にLi二次電池や電気粘性流体の仕事を手伝うように指導された。これらのテーマでは、高純度高絶縁ホスファゼンや電気粘性流体の増粘防止技術、高性能粉体3種セットなどの成果をだし、おかげで開発予算だけは潤沢に確保できていた。
<ポイント>
最近では成果主義の評価を行う企業も増えてきた。研究開発部門の成果として一番わかりやすいのは、「事業となりうるネタ」である。すなわちメーカーであれば「モノ」となる。研究開発も行わずいきなりモノを作ることができるのか、と聞かれて「不可能」という人は甘い。今やそれなりの努力をすれば「先端技術でできあがったモノ」を作ることができるのだ。ただし、STAP細胞のような再現できない「モノ」では事業構築は不可能なので「再現性のあるモノ」を作る必要がある。もし先端技術を集めてみて「モノ」あるいはそれに近い「モノ」が全くできないならば、事業化は難しいだろう。企業において企画立案するときに、「モノ」を作れない企画をしてはいけない。
退職前に担当した中間転写ベルトでは、その「モノ」ができていないのに「商品化フェーズ」までテーマが進んでいた。原因は、「問題点はあるが製品立ち上げまでには改善できる」と周囲に説明されていたためだ。しかし、その問題点は、化学の教科書に書かれたフローリー・ハギンズ理論では解決できない内容だった。この仕事を引き継ぐ覚悟を決めた理由は、科学で解決ができない問題を技術で解くことができるか、という命題を考えていたからだった。そして科学では説明できない現象を利用した技術を完成し、プラントを立ち上げた。11月に予定している講演会では、科学の先を進む技術をどのように創り出すかについても説明する。
カテゴリー : 一般
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